end(old)
「リーマス――!!」

ああ、今日もまたやって来た。僕は、はあと重いため息をついて足を止める。

「…どうしたんだいシリウス」

気だるげに後ろを振り返れば長い睫毛に縁取られた目元をきっと吊り上げて仄かに赤らんだ顔をした我等が悪戯仕掛人のひとりシリウス・ブラックがいたく憤慨した様子でこちらにずんずん荒い足取りで歩み寄ってくる。美人が怒ると怖い、とよく言うが顔立ちが整いすぎているというのも考えものである。周りにいる生徒(特に女生徒)はいつものクールなシリウスとはうって変わった彼の様子に「こんな表情もするのね…」といった感じでうっとりとしている。こんなこと案外、日常茶飯事だというのに。

「聞いてくれよ!またっ…ナマエの奴っ!!」

詰め寄ってくるシリウスを宥めるために、はいはいと言って軽く肩を叩く。そしてナマエも、もうちょっと尻拭いをする僕のこととか考えてくれればいいのに、とここにはいない彼の恋人を恨んだ。

ナマエとは僕らと同学年のハッフルパフ生で、この学校で唯一ハッフルパフに入ることを一番に望んでいた生徒である(彼いわく目立ちたくないらしい)そして何と驚くべきことにこのナマエがグリフィンドールの王子様シリウス・ブラックの恋人なのである。何故こんな対照的とも言える2人が恋人同士などという奇妙な関係になったかというと、それは以外や以外シリウスの一目惚れなのである。なんでも図書館で本を片手に居眠りをするナマエを見て運命を感じたらしい。
しかしこのナマエ、なかなかの曲者というか…性格に難あり、なのである。もちろん性格が悪いというわけではない。ただ何に対しても無気力なのだ。やる気がない、投げやり、面倒くさがり。どれも正しく彼を形容する言葉である。

こんなナマエであるからして恋愛に対してことヘタレなシリウスの必死のアピールなど届くどころか気付いているかどうかも怪しかった。(なんたってシリウスのヘタレ具合といったら目もろくに合わせられないし話もしどろもどろ、おまけに授業で隣の席になっただけで嬉しくてその日一日他のことがてんで手につかなくなるのである!)
そしてそんな何の反応も返さない彼に死にそうな思いでシリウスが一世一代の告白をし、「別にいいよ」というなんともごくあっさりとした返事を頂いたしだいで晴れて二人は恋人同士となったのである…が。

「今日は一体どうしたの?また手を繋ごうとしたら振りほどかれたの?それともファンの子の前で話しかけたら無視されたの?」

彼は目立つことを嫌うというのにシリウスといったら歩けば女子が見つめる、笑えば悲鳴を上げられるといった、およそ目立たないこととは無縁の人間である。だから特別目立つこと(特にシリウスファンの女の子に睨まれるようなこと)はしたくないという彼の気持ちは分からなくもない。

「ち、がうんだよ!!最近寒くなってきたからナマエに俺のとペアの、マフラー買ったんだ!今日届いたから、ナマエに見せたら、あいつっなんて言ったと思う!?」

かすかに嗚咽が混じって途切れ途切れのシリウスに「なんて言ったの?」と聞き返せば彼はその大きくて切れ長の目からぽろりと涙を一粒零して「こう言いやがったんだ!」と叫んだ。




そうだね、かわいいねいいね

(…いいんじゃない?褒めてるんだし)(だってナマエの奴、一回も俺の方見てないんだぜ!!?)


♪Thanks title by 確かに恋だった

- ナノ -