俺様が厄介な拾いものをしてから約一週間がたった。
とりあえず、このことは旦那に知られてはいけないため他の忍たちには口止めをして、極力人目に触れないように俺様が毎日食事を運んでいる……のだが……。
「……味、が薄い……な」
「またぁ!?この前よりだいぶ濃くしたんだけど。」
ナマエは味にうるさい……というよりは味覚がおかしいらしい。
「米……固い」
「それが普通なの!」
俺様は深くため息をついた。万が一、女中や小姓の中に協力者が紛れていて飯の中に暗号文や毒薬、武器などを隠し入れるかもしれないのでナマエの食事はすべて俺様が作っている。しかし「変な味」だの「腹が膨れない」だのナマエは文句が多い。
「……マヨネーズ欲しい……」
訳の分からないことをいうナマエをぎろりと睨む。
これでも俺様の料理は評判いいんだからね!!
「今は食わせてもらってるだけでもありがたいの!文句言うならもう持ってこないから」
ぴしゃりと言い放つとナマエは「それは困る」と言って黙々と食べ始めた。かちゃかちゃと箸の音だけが牢に響く。こいつは箸の持ち方が微妙におかしい。しかも俺様の料理を「変な味」と言うあたり、以前言っていた「異国からきた」発言に相応しい行動ではある。(まあ一流の忍ならそれくらいはいとも容易く演じるだろうが)しかしナマエがここに来てからしばらくがたったにもかかわらず異国から船が来たという話も、ナマエ自身の情報もまったく入ってこない。もう本当に旦那に見つかる前に始末してしまった方が楽かもしれない。
「ご馳走さま」
かたり、と箸の置かれる音がして膳がこちらに差し出される。
「はいはい……、あ?」
「……う」
器の中に、まだ何か残っている。
「これ……残してる」
引き寄せた膳にはきれいにひとつのおかずだけが隠すように隅っこに寄せられていた。
「……どうしても、苦手で」
その言葉に目をまん丸くする。
今の時代はいつ、餓えるはめになるか分からないため食べ物を残す奴なんてほとんどいない。俺様が珍しいものを見る目つきでじっと見つめると、ナマエは居心地悪そうに目をそらした。
「これだけは……苦手……」
ぼそぼそと言い訳のようにナマエが呟く。(実際言い訳なのだが)なにもいわない俺様にナマエは意を決したように椀と箸をつかむと、これを一気に口に流し込んだ。俺様は状況についていけず思わずぽかんとする。
「嫌いだが……、別に……食べられないわけじゃ……ない」
恥ずかしげに呟いたナマエに俺様はぷっと吹き出した。
(ああ可笑しい。)(おかげでなにを考えていたかも忘れてしまった。)