"それ"は、戦場に落ちていた。
「うわ〜、こりゃまた派手にやったねぇ」
酷く血生臭い風が鼻腔をくすぐる。まだ真新しい戦場跡はむせかえるような血の臭いと地面を覆い尽くす屍とで溢れかえっていた。常人ならば耐えられないくらいだろうが幼いころから訓練されていた俺様にはこれもただの日常風景でしかない。
「さぁて、さっさと終わらせますか」
戦場跡からその戦の規模と戦力、武器を調べるために手当たり次第あたりを物色する。地面を踏みしめるたびにどす黒く変色した血が足を汚した。
「っあー思ったより広いな、こりゃ」
半刻ばかりたっただろうか。何処を見ても変わらぬ景色にそろそろ飽きてきた。くあっと大きくあくびをすると涙で少し滲んだ世界の端に錆色の中、この場に不釣り合いな白が輝いた。
「……ん?」
なに……あれ?
不審に思い、警戒しつつ白に近づいていく。軍旗も赤に染まるこの戦場で、何があんなにもきれいなままでいられるのか気になった。そろそろと近づいてそばに落ちていた小石を白の塊に向かって投げる。反応は、ない。
警戒を怠らずに白の塊をのぞき込むとなんと、それは人だった。真っ白な見たこともない衣服を身にまとい戦場に転がっているそれはどうやら歳的に青年のようだ。少し淡い色をした黒髪にふくよかな頬。(これだけで少なくとも餓えずにすむ身分だと分かる)そして全く荒れていないきれいな指先は野良仕事も、剣術も知らないようだ。今の時代こんなきれいな手をしているものを俺様は知らない。(どっかの国の姫さんならまだしも、その可能性はゼロだ)
見たところ怪我も無さそうだし、そっと頬に触れてみたところ生きてはいるようだ。血色もいい。
「(寝てるとしか思えないんだけど此処で!?)」
悶々と考えてはみるがこれといった考えは思い浮かばない。意を決して頬を二三回叩いてはみるがそれにも無反応。穏やかな呼吸音だけが戦場に健やかに息づく。
「はぁ……めんどくさいもん見つけちゃったなぁ……」
深いため息をついて安らかに眠り続ける青年を見つめる。
このまま放置するわけにもいかないしなぁ……。
「あーもう……」
持っていた縄で手足をきつく縛ると青年を担ぎ上げる。ほっとけないなら取り敢えず持ち帰るしかないでしょう!
よいしょと立ち上がっても青年は起きない。本当に死んでるんじゃないかなぁ。(その方が楽なのに……)見かけよりもかなり軽い青年を担いだ背中は行きよりもだいぶ暖かく、その温もりに俺様は、ほぅと息をついた。