妙に生温い空気をたっぷりと吸い込んで俺は大きな欠伸をひとつする。毎朝同じ時間、同じ場所を通るバスはいともたやすく外を歩く人々を抜かしていく。普段は騒がしい分小太郎と二人でいるときとこの通学時間は俺の大切な癒しだ。(他の奴らは大概自転車や歩きなのだ)特にやることもなくヘッドフォンから流れてくる曲だけに意識を集中する。
「(あ…そういえば今週は進路相談があったんだった。)」
担任が先週末に教室で坦々と説明をしていたのを思い出す。(その時俺は睡魔と激しい戦闘を繰り広げていたわけだが)
「(進路…ねぇ)」
俺の進路は一応進学なのだが、あいつらはどうなのだろう。一緒に連れ添って、なんて連中じゃないからきっとばらばらになるのだろう。幸村も政宗もそれぞれに目標があるみたいだし、元就は元々優秀だ。佐助はどこに行ってもうまくやりそうだし、元親はなんとなく働きそう、慶次は…慶次だな。小太郎もおそらく進学だろう。
「離れ離れ、か。」
ぽつりと呟いた言葉は妙に現実味をおびて俺の耳に再び無機質な重みを持って帰ってくる。まるで自分の声ではないようなそれに自分自身で驚いた。
「、あ。」
それを誤魔化すように再び窓の外に視線を戻せばちょうど物凄いスピードで歩道を走っている政宗と幸村が目に入った。おそらく競争でもしているのだろう。後ろから二人の荷物を積んだ自転車で片倉と佐助が呆れた表情をしながら追いかけている。あいつらまさか毎日やってるのか。(あの二人なら有り得る)思わず凝視していると今度はその政宗たちを元親と元就の乗ったバイクが追い抜いていく。
おそらくまた元親が賭にでも負けたのだろう。つい先日も負けて元就に足代わりにされていた。抜かれた政宗たちが元親を非難する。元親たちが走りながら言い争っているとその横の塀の上を小太郎が軽々と追い抜いていった。三人が「ああーー!!!」と叫ぶ。つい堪えきれなくて思わず笑みをこぼすと塀の上で寝ている猫を飛び越えた小太郎と視線が合う。ぱっと顔を綻ばせてひらひらと手を振る小太郎に気づいて他の奴らもこちらに気がついたようだ。
「ナマエ殿!おはようございまする!!」
「Hey、Goodmorningナマエ!!」
「あっ、ナマエおはよー。」
「ふん…」
「よーナマエ「ナマエか…。バス通学は気楽なものだな。」
「ちょ!元就セリフ被ってる!!」
あまりにもいつも通りの会話にさっきまでのもやもやとした思考なんてすっかり忘れ、俺は大きく笑ってバスの窓を開け放った。