end(old)
穏やかな太陽。ふわふわと揺れるカーテン。こんないい日和の教室でひとり、負のaura(オーラ)を放っているこのバカはなんだ。

「Hey、ナマエ。」

突っ伏した頭を定規でつつけば、のろりとした動作で恨めしげな瞳がこちらを向いた。

「うざってぇからダレてんじゃねーよ。Are you ok?」

ため息混じりに言えばナマエはじとっとした目でこちらを見返してきた。

「お前はいーよ。英語得意じゃん。このエセ外国人め…」

そう言って再びぐったりと机に突っ伏したナマエの手元には英語のテキスト。(しかも再提出のふせんが異常なほど貼ってあってキモい)

「俺は日本から出るつもりなんて48%くらいしかないんだ!英語なんて死ねばいい!!」
「48percent(パーセント)も出る気満々なんじゃねぇかよ!!」

「俺だって旅行くらいしたいんだ!」とぶつぶつと英語に対する愚痴をこぼし始めたナマエを無視して俺はテキストを手に取る。
Ah…こいつ中学の時何してたんだ?絶対寝てただろ。英語の時間は自習時間だと思ってたんだろオイ。支離滅裂な回答に呆れているとナマエが妙にきらきらした目で俺を見つめていた。何だ、そのlunchtime(昼飯)の時の真田ばりの期待のこもった視線は!!

「俺様何様政宗様!どうか俺に英語を教えてプリーズ!!」

ぱん、と両手をあわせてこちらを拝んでくるナマエに俺はやっぱりか、と頭を抱えた。

「NO!!"私は夢は台所です。"ってなんだよ!?無機物かよ!!料理人はkitchenじゃなくてcookだ!しかもそこはisじゃねぇ!!」

かなり初歩的なことから始まった緊急勉強会はかなりなスパルタで行われた。

「ここは、…was…か、な…?」
「人のcountenance(顔色)うかがってんじゃねー!!」

バシッと下敷きでたたくとナマエが「うっ…!!」とうなだれる。どんなけ英語が嫌なんだコイツ。さらさらとノートの上を踊るシャープペンに目を滑らせる。なんだかんだといっても飲み込みは早いため問題を解くペースも徐々にあがってきている。(たまにさっきのような凡ミスはするが)

「そこはtoじゃなくてasだ。」
「んー。」

消しゴムを擦るたびに色素の薄い髪がふわりと揺れる。再びリズミカルに動き出したシャープペンをゆっくりと追うと視界に入ったしなやかな指先に目が止まる。Ah…こいつ手、きれいだな…。
男にしてはほっそりとした指は本当に細くて小指などは強く握ればすぐに折れてしまいそうだ。

「政宗ぇ、ここはさぁ…」
「Ah?」

問題を指差すナマエの顔をじっと見つめる。あ、こいつまつげ長げー。伏せられた瞳の上で睫毛が揺れる。自分のことを映していない瞳がなんだかすごく気にくわなかった。目の前の頬にゆっくりと手を添える。すべらかな肌はやはり見た目通り触り心地がいい。突然頬に触れてきた俺にナマエが目を瞬かせる。長いまつげが再び揺れた。ぽかんとあけられた唇に目が釘付けになり、ゆっくりと顔を近づけていく。目の前いっぱいにナマエが広がった。

「政宗?」

紡がれた名前にはっとして止まる。今、俺は何をしようとした?

「あ…何でも、ねぇ…」

ぎゅっと制服の胸元を握る。どくりどくりと心臓がうるさい。

「悪い、もう帰らねぇと。」
「あ、政宗ー!」

叫ぶナマエを置いて逃げるように教室から滑り出た。息を切らして玄関口まで走り抜けるとようやく深い深呼吸をする。頭の中にはナマエのことしか浮かばない。指がすごく細かったとか、睫がながかったとか、さっきのことばかり思い出してしまう。危ないあぶない、と壁にもたれこむ。ひんやりとした感覚に少し頭も冷えた。

「I almost have been in love with you.(あと少しで惚れちまうとこだった)」




(呟いた言葉にぎくりとしたのは自分自身)(あれ?もしかしてもう手遅れですか?)

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