end(old)
珍しく、俺は今日幸村とふたりだけで帰ることになった。地平線から半分だけ顔を出す太陽が俺の視界を真っ赤に染め上げる。

「佐助たちはまだ走っているのでござろうか?」

空を見つめながら呟く幸村に「そうだなぁ。」と気の抜けた返事返す。幸村と俺を除く他のメンバーは体育のマラソンをサボったため走りなおし中だ。もちろん自主的に、なんてそんなまじめな連中ではなく、体育教官の武田先生(通称お館さま)の指導のもと、だ。ちなみに俺は保険医の明智に一筆書いてもらったのでしごきは免除だった。(そのせいでさんざん裏切り者扱いされたが)
ひゅう、と俺と幸村の間を冷たい風が通り抜ける。あまりの寒さに俺はぶるりと身震いをした。マフラーをして、ポケットに手を突っ込んではいるが、それでもまだ寒い。

「幸村、お前寒くないのかよ?」

幸村はいまだにTシャツに学ランを羽織っただけという、あまりにもラフすぎる格好だ。

「耳と顔が寒いでござる!」

それだけの薄着でそこしか寒くないというのは何かおかしくはないか、幸村。ひらり、と俺の目の前に真っ赤なもみじが一枚落ちる。美しく染まった五葉はまるでさっきよりも、より地平線の彼方にひっこんでしまった太陽のように赤い。

「もう、秋も終わりでござるな。」

食欲の秋が終わってしまうでござる、と名残惜しそうに言う幸村に俺は思わず吹き出す。そういえば弁当のときに食欲の秋だなんだと騒いで佐助を困らせていた。赤茶色の髪を夕焼けでよりいっそう赤くして空を見上げる幸村の背中に、思い出し笑いをして、俺は近くの自動販売機で温かいコーンスープを2本買った。これは俺のお気に入りだ。

「まぁ、冬になったら蟹やらなんやら旨いもんもまた出てくるし、今度みんなで鍋でもしようぜ。」

そう言って後ろからぴたりと幸村の頬に温かい缶をくっつける。「ひゃっ!?」っと小さく叫んで驚く幸村に「引っかかったなかわいいやつめ。」と言ってからかった。いつまでたっても振り向かない幸村に、不審に思って「幸村?」と顔を覗き込む。

「(、あ……)」

幸村の顔は寒さで赤くなった耳よりも真っ赤になっていた。伏せられている瞳がゆらゆらと揺れる。固まってしまった俺に幸村は「そ、それではまた明日!!」といって逃げるように走り去っていってしまった。どんどん小さくなっていく背中を見つめて俺は案山子みたいに棒立ちするしかなかった。



(何だか酷く切なくなった)

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