!ディセプティコン兵士主
!ヤンデレ闇医者
!時系列11話くらい
最近、闇医者先生の部屋で何やら妙な物音が聞こえる。あのドライブだなんだとサボり癖のあるノックアウトが異様に部屋に篭るようになったのも物音が始まったのと、ほぼ同時だ。以来大変に機嫌が良くなったことと符合しているかどうかは知らんが、とにかくうるさいし勝手に妙な実験でもされたらたまったもんじゃない。メガトロンがくたばっている間、ディセプティコン軍のリーダーは、この俺なのだ!今日という今日は何をしているのか確かめてやる!
そんな思いを胸にリペアルームまで行くと、医者の代わりに助手が甲斐甲斐しくメガトロンに研磨を掛けていた。あの医者まさかまた人間のレースにでも行ったってのか?どいつもこいつも勝手なことばっかしやがって!
「オイ、ノックアウトはどうしたァ?」
俺が不機嫌そうに問いかけると研磨の手を止めたブレークダウンは「部屋で休んでる」と簡潔に答えた。
「ま・た・か・よ!だが丁度いいか。一回ガツンと言ってやらなきゃ分からんようだしな!」
地団駄を踏んで踵を返すとブレークダウンが「あいつ何かやったのか?」と呑気に問いかけてきた。それに苛立ちながら「ここ数日の件だ!あのお医者様は俺様に隠れて一体なにやってんだ?ァア?」と半分八つ当たりにブレークダウンに詰め寄る。
「ア〜…一体何の話だ?」
「トボけたって遅えんだよ。部屋から妙〜な音はするし、ノックアウトは篭りがちになるし、一体何を企んでんだ?お前だったら知ってるだろ、ウォ〜ブレ〜クダウ〜ン?」
爪を弾きながらブレークダウンを問い詰めると、奴は神妙そうに眉パーツを潜めて静かな音声で呟いた。
「あんまり今のノックアウトには関わらない方がいい。…気分が悪くなるぞ」
「俺様は既に気分最悪なんだよ!俺の!船で!勝手されちゃ困るんでな!リーダーはこのスタースクリーム様だぞ…ったく」
変に深刻そうな辛気臭い顔をしたブレークダウンにひらりと手を振って「二度と俺様に指図すんじゃねーぞ〜」と言い残してリペアルームの奥にあてがってあるノックアウトの私室を目指す。大体助手が関わらない方がいいってどういうアドバイスだっつーの。こっちはこれからメガトロンをどうするかで頭いっぱいだってのに、その決定権を有するノックアウトを引き込むのは重要なことだ。
薄暗い通路を歩きながら、そうひとり思考を巡らせる。ふと気が付くと部屋に近づくたびに妙なうめき声の様な物音も大きくなってきて、辟易とした思いで歩を早めた。どうやらノックアウトは絶賛企みごとの最中らしい。現場を抑えてなにやってるのか突き止めてやる!
ノックアウトの私室の前までやって来た俺は「入るぞォ」と声を掛けると許可を得る前にズカズカ入室する。部屋の中は薄暗く、スリープ中の医療機器の赤く点滅する明かりだけがうっすらと室内を照らしていた。妙な物音は部屋の奥から続いている。呻き声の他に何かを引きずる様な音まで聞こえてきて、いよいよ何事かとノックアウトの名前を呼びながら音の方へ向かった。
部屋の奥では僅かに紫色の明かりが揺れているのが目に入る。
「ノックアウト!いるなら返事くらいしろっての!全くこないだから一体何やって…ん……だ?」
破壊され尽くした機体。悲鳴を上げる鎖。耳障りな呻き声。暴れる音。怪しく輝く紫の光。錆びたディセプティコンエンブレム。
もがくテラーコンと化した見知らぬディセプティコンを鎖で縛り付けて恍惚と笑う、メディックノックアウトがそこには居た。
「おやぁ?誰かと思えば…何勝手に入ってきてるんですか?ここはプライベートルームですよ?」
「は?…プライベートルームっておま、…何して…」
呆気に取られて呆然と呟くと、ノックアウトはやれやれとため息をつく仕草をして俺を省みた。
「何って恋人と戯れていただけですが?この星は退屈ではありますがナマエは大変気に入ったようでしてね…この通り元気いっぱいですよ」
ねぇナマエ、と嬉しそうに笑ってノックアウトは鎖で拘束されたテラーコンの顎をさする。テラーコンは低い声で呻きながらこちらに飛びかかろうと鎖を引っ張った。
懐のダークエネルゴンが共鳴して仄かに発光する。それに呼応するようにテラーコンが耳障りな音声で吠えた。それを聞いてノックアウトがうっとりと目を細める。
「先日あなたをリペアした際にパーツの隙間から落っこちてきたエネルゴンの欠片、拾っておいて正解でした。まさかずーーーっと寝ていたナマエを起こしてくれるなんて!」
ノックアウトに噛み付こうと口をガチガチさせるテラーコンに指先を齧らせながら笑うノックアウトは狂気じみている。切断された爪の断面を見せながらノックアウトは「ほら!」と感極まったように笑顔を弾けさせた。
「ピクリとも動かなかったナマエが私においたをするまでになったんです!美しいボディが傷付くのは心外ですが、ナマエのつけた傷ならかまいません。それにほら!鎖が千切れそうなくらい元気なんです!ブレークダウンは、そんなのただのスクラップだって言ったりしますけど、スクラップが噛み付いたりしますか?!ナマエはなんでも出来るんです。動くことも話すことも戦うことも食べることも、接続することだって!」
おまえ…。
絶句しながら目の前の光景をスコープに焼き付ける。鎖に縛られながら暴れるテラーコンに腕を絡めて、ノックアウトは幸せそうに目を細めて笑った。言葉を失っている俺にノックアウトがうっそりと微笑みかける。
「勝手に部屋に入ってきた件には口をつむりますよ。私もあなたからエネルゴン一欠片頂戴していますし。でもまた無断でナマエに接触しようとしたり、ダークエネルゴンを奪おうとしたり、このことを口外しようとしたら…ただじゃおきませんから」
わたしの特技は解体なんです。
そう呟いてきゅうと唇を吊り上げた闇医者を見て、俺は無言で足早に部屋を後にした。言いようもない胸糞悪さがブレインを支配する。荒い足取りでリペアルームまで戻ってくると、丁度メガトロンの研磨を終えたブレークダウンが工具をしまっているところだった。鬱憤を貯めていた俺は涼しい顔をした助手に食ってかかる。
「オイ!ありゃあ一体なんなんだ!あんなもん…俺は許可した覚えはないぞ!」
ギャアギャアと喚けばブレークダウンは工具を持ったまま、神妙な顔をして俺に向き直った。
「初めっから話すと、アレは俺の前にノックアウトの助手をしていたナマエってディセプティコンだ。ノックアウトの恋人で、たしか300年くらい前にオートボット連中にやられて、以来ずっと丁寧に研磨かけてノックアウトが機体を保管してたんだ。たまに取り出しちゃあ話しかけたり色々してたんだが、ダークエネルゴンを手にいれて蘇らせてからずっとあの調子だ。もう何を言っても聞く耳持たねぇ」
ブレークダウンはそう言って居心地悪そうに通路の奥を見つめた。一度知ってしまえば、その奥からは微かに死者の呻きが聞こえる気がする。
「あいつの中ではずっとスリープ状態だった恋人がようやく目覚めたってことになってるんだ。丁度、今のメガトロン様みたいに」
そういってブレークダウンはチラリとリペア台に横たわるメガトロンを見つめた。それは…ゾッとしない話だ。如何にしたって胸糞悪い。
「俺たちにはどうしようもない」
そう言い捨てて淡々と機材を仕舞い出したブレークダウンの姿を見つめて、俺はチッと舌打ちを零した。たったひとりになったリペアルームには、聴覚にこびりつくような呻き声だけが残っている。