短編

「はあ?なんやこれ!白石好きな奴でもおったんか?!…な、なあ、まさか金森さんとちゃうよな…?勝たれへん…」

「えー!なんやこれショック!!な、相手誰なん?」

「え…白石くんて誰かと付き合うてるん?」

「スクープ!ちょ、ゴシップやで!ミョウジくんその写メちょうだ…ちょお待ってや!新聞部の見出し一面…!待ちやー!!」


俺は携帯を片手に校内をさまよっていた。手当たり次第目についた奴に例の写メを見せて感想を求める。だが皆から帰ってくるのは俺が望む答えではなく、前述のような甘ったるいものばかりだった。客観的に見てもこの写真は惚れた腫れた云々の部類に入るらしい。そりゃそうだ。だってこんなに嬉しそうに頬を染める白石なんて、今まで見たことない。先日まで親友という地位に収まっていた俺がそうなのだから、他の奴らは余計にだろう。問題は、これが"俺の送った"メールを見ているということなんだ。

俺は、男だ。それは間違えようもない事実である。それはあいつも知っているはず…。
最早何が何だか分からなかった。本当に…何を考えているんだ、白石。

俺は頭を抱えながら写真の日付当日のことを思い出す。確かあの日は両親が仕事で、何処かで夕飯を食べてきなさい、とお金を渡されたのだ。一人で食べるのも忍びないし、何となく白石のことを誘った。その頃から一緒にいるのが辛くなって距離をおいていたから、もしかしたらその罪悪感からかもしれない。メールを送って部活終わりにテニスコートの方へ向かったら、白石が飛んで来たのを思い出す。珍しくコート整備をほっぽってやって来たから、そんなにも俺から誘うのは久し振りだったのかと後ろめたい気持ちになったのを覚えている。ぎこちないが、普通の友人関係だったはずだ。そんな普通じゃないような…金色と一氏のような形とは違う。


そこでふと握っていた携帯に視線を落とす。そういえば金色の携帯をひったくって持ってきてしまったんだった。返さなくては…。正直テニス部に行くのは気後れするが、仕方ない。

携帯で時刻を確認するとまだ部活が終わるには早い時間だったので手持ち無沙汰に図書室へ足を運ぶ。窓際の端の席へ腰を下ろして深く息をついた。

行きたくない。白石と顔を合わせることができなかった。このままずっと、時間が止まってしまえばいいのに。
辟易とした気分で室内を見渡す。そういえば、ここには良く白石と足を運んだものだった。目立たないが居心地の良いこの席に座って漫画を読んだり試験勉強をしたりした。植物図鑑片手に毒草の話を延々と聞かされたこともある。俺が何か質問をしたりすると、白石は嬉しそうに笑って答えてくれたものだった。そういえば、昔は白石が笑うのが嬉しくて、俺も図鑑を読んで毒草について少し勉強したり、カブリエルの為に昆虫図鑑買ってきたりしたこともあった。その度に白石はすごく嬉しそうに表情を緩めて……。

「(、まて)」

そのときの白石の顔は、赤く染まってはいなかったか?

瞬間、心臓が止まった。世界の裏側を見たような気がした。
そうだ。思い出せ。よく考えればあの時も、あの時も、あの顔を見たような気がする。部長になったことを褒めたとき、試合に応援にいったとき、映画館に誘ったとき、エトセトラetc…。
そういえば、以前ここで試験勉強をしていた時、俺に数学を教えていた白石を見て「私達にも教えて欲しい」と女子がやって来たことがあった。柔らかく断った白石に「教えてやれば良かったのに」と俺が言うとあいつは心底悲しそうに笑って…いや、あれは悲しいというよりは切なそうなーー?


俺は窓辺から階下を見下ろす。小さく見えるテニスコートを行き交う人影を見て勢いよく図書室を飛び出した。嵐のように駆けて行く俺に、みんな驚いたような目をして通り過ぎて行く、
なあ、白石。俺は気付いて、…気付いたことがあるんだ。これが正しいのかも、間違っているのかも、俺がどうしたいのかも分からないけれど。それでも。






(どうしても)
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