!同村出身
!捏造過多
俺の故郷はウォールローゼ内の奥地、緑生い茂る山奥にある。そう大きいとはいえない山村だが、代々狩猟を続けながら生計をたててきた矜恃は高かった。俺たちは俺たちのルールに則って生きていたのである。静かに、だが誇り高く。
そんな平穏が瓦解したのは四年前だ。突如出現した超大型巨人によってウォールマリアは呆気なく突破された。巨人共が俺たちの村まで来ることはなかったが、活動領域の縮小により壁内の人口が増え、獲物の数は激減した。このままでは冬を越せるのか難しい程度まで。
俺は…俺たちは根っからの狩人である。先祖代々の狩猟民族の血がこの身体には流れている。俺は、狩り獲られる存在であってはならないのだ。そんな俺が訓練兵への道を進んだのは、至極当然のことだった。村で唯一の同年代であった彼女と共に。
「何なん、お前」
その日の訓練を終えて夕飯を食べ終えた後、誰よりも遅くまで食堂に残って残飯に目を光らせているサシャを捕まえて、俺はそう切り出した。同村出身のこいつは入団して以来何故か若干俺に腰が引けている嫌いがある。「な、何ですか?」と明らかに目を泳がせながら言ったサシャを俺は睥睨する。
「何ですか?じゃねーよ。それ!いい加減何とかならんのか」
「それ…?パッ、パンですか?!いくらナマエでもあげませんよ!!」
疑問符を浮かべたサシャがハッとした表情をして手に持っていたパンを背中に隠す。
お前ほど食い意地はってねーから!大体それちんたら食ってたジャンから取ったやつだろ!いらねーよ!
「いらんし!ってかそうじゃねぇ!喋り方だよ。喋り方!」
俺がそう言うとサシャは怯んだように微かに後退した。気まずそうな視線に俺は語気を鋭くする。
「この間ユミルたちにも言われてたやんか。いい加減その気色悪い敬語止めんかい」
「ナマエ見てたんですか!?」
「見ようとしなくてもあんな大声やったら目立つわ」
呆れ顔で言えばサシャは苦々しげに視線を逸らした。どうやら後ろめたさのようなものはあるらしい。
「ユミルの言う通りだ。馬鹿が何気にしてるん。お前の喋り方何て誰も気にせんし」
「…ナマエには、分からないですよ!」
「…はぁ?」
いきなりそう叫んだサシャはパンを握りしめて真っ直ぐにこちらを睨みつけた。いい加減こいつの話し方にイライラしていた俺は額に青筋を立てる。
「何がじゃボケ!お前が勝手に周りの目ェ気にしとるだけやろ!」
「違う!ナマエは黙っててくださいよ!」
「じゃあその気色悪い敬語止めろ!」
「ならナマエがその訛り止めてください!」
「はァ?何でそうなるんこの馬鹿!」
「うるさい!馬鹿って言う方が馬鹿なんやし!」
「子供か!お前がどう考えてるんは知らんけどな!俺は自分の故郷を誇りに思っとる。だから訛りも隠さんし、堂々と話す!お前が気色悪い敬語使ってるのを見るとまるで故郷を馬鹿にされとる気がするんだ!」
「そんなん私の勝手やし!ナマエは黙っとればいいやんか!」
「黙ってられるか!」
思わずサシャの手を掴む。勢いのままに力を込めればサシャが強い視線で俺を見上げた。その目は昔、村で狩りに奔走していた頃の彼女に似ていた。俺はその瞳を見つめたまま勢いに任せて続ける。
「お前は俺の許嫁だろうが!」
途端、サシャが虚をつかれたように目を見開いて勢いを無くす。突然大人しくなったサシャに違和感を感じていた俺も漸く自分の言葉の意味を理解して絶句した。思わず辺りを確認するが幸い、近くには誰もいないようだった。
サシャと俺は、生まれてすぐに親同士が決めた許嫁だ。ダウパー村では許嫁なんて存在は珍しくも何ともない。むしろ生まれる前に決まっているのが普通だった。それが他所では普通ではないなんていうのも実はつい最近知ったくらいである。だから俺たちにとっては、もちろんそれは当たり前で。だから明言なんて滅多にするようなことではなく。それは周知の事実のはずで。あー、もう。
「…好きにしな」
掴んでいた手を離して息をつく。踵を返して宿舎に向かえば背後で微かにサシャの動く気配がした。
「あ…ナマエ!」
呼ばれた名前にゆっくりと振り返る。するとサシャは何かを逡巡したあとで、こちらに駆け寄って俺に恐る恐ると右手を差し出した。
「……パン…半分いり、ます?」
…聞くくらいならそんな顔すんなよ。
至当