短編(old)
!ヤンデ宮田
!何にも知らない村人主
!何故か宮田がループに気付いている




ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
俺は全力疾走で医院内を駆け回る。息が切れるのなんかお構いなしだ。命の危険が差し迫っている!

「ナマエさーん。くすくす……何処に行ったんですかー」

遥か後方から聞こえた楽しそうな声に振り返らずに走り抜ける。なんだよ!何なんだよ!?どうして宮田先生が!

村に怪異が起きて以降、俺は教会付近で出会った牧野さんと共に行動していた。辺りは化け物だらけだし、訳わかんねぇ赤い雨が降ってくるしでもう散々だったけど、やっと会えた見知った顔に俺は酷く安堵していた。

「取り合えず、学校か医院に行きましょう。緊急事態ですから無事な人の幾人かは集まっているはずです」

俺の希望的観測を含んだ意見に牧野さんは……はい、と不安げに応えて歩き出した。俺だってこの状況で無事な人がそういるとは考えていない。あくまで最善策が出るまでの気休めのつもりだった。
化け物たち(あれが村人だとは考えたくない)を武器でぶっ倒しつつ宮田医院を目指す。牧野さんは求道師様なので、戦えない彼を庇いながらなんとか医院に着くことができた。

ほっと安堵の息を吐きつつ医院の中に入る。院内は薄暗かった。

「暗いな……おーい!誰かいませんか!」

それは俺が大声を上げたのとほぼ同時だった。ゴッという鈍い音が背後で聞こえてすぐさま振り返る。目を見開いて見つめた先には倒れた牧野さんとハンマーらしきものを握った宮田先生がいた。

「え……みや、た先生?」
「こんにちはナマエさん。……よりにもよってこの人と一緒ですか」

宮田先生が牧野さんを見て苦々しげに表情を歪ませる。
ああ、牧野さんは殺していませんよ。ただの気絶です。

牧野さん……"は"?

様子のおかしい宮田先生に俺は一歩後ずさる。すると宮田先生はおや、と首をかしげた。

「どうしたんですかナマエさん。さあ、俺と一緒に行きましょう」

鈍く輝くハンマーを握ったまま宮田先生がこちらに歩み寄る。

「な、なんで……牧野さんを……!」
「何故って、邪魔だからですよ」

あなたの最期を看取るのは俺だけでいいんです。

そう言って宮田先生は綺麗に微笑んだ。その笑みに俺は戦慄する。今……なんて?

「全くこの世界は素晴らしい。何度でも何度でも何度でもやり直せるから失敗を恐れなくとも構わない。何度でも、あなたを愛せる」
「な、何を……」
「前回のナマエさんは素晴らしかった!無条件に俺を信じ、愛してくれました。俺が牧野さんになる手助けも!でも……今回は駄目なようですね」

暗く濁った瞳に背筋が凍る。今すぐ逃げなくてはと頭が警鐘を鳴らすのに足だけはまるで石になってしまったかのようにビクともしなかった。

「前々回は俺を庇って美奈に殺られて、その前は俺が見つける前に誰かに殺されていた。その前も探し出す前に屍人化です」

坦々と話す宮田先生は徐々に俺との距離を積めていく。俺は警戒心を露に後退していった。

「そして今回は当て付けのように牧野さんと行動ですか。俺はこんなにあなたを愛しているのに」

宮田先生が手にしたハンマーを振り上げる。反射的に後ずさろうとした俺は足がもつれてその場に尻餅をついた。瞬間俺の頭のあった位置をハンマーが凄い勢いで通過する。

「なっなんで……!」
「何故って……あなたを愛しているからですよ」

がくがくと壁にもたれ掛かって立ち上がった俺に宮田先生が再びハンマーを構える。

「誰かに壊されるなんて真っ平です。大丈夫、丁寧に殺してあげますよ。海送りにも行かないように手足を縛って鎖で繋いで。俺が真の求道師となってあなたを救済する最期の瞬間まで、俺たちはずっと一緒です」

ね、ナマエさん。

恍惚の笑みを浮かべる宮田先生は幸せそうに目を細めて俺を見つめた。命の危機を感じた俺はその場からなんとか逃げ出し、今も院内を逃げ回っている。

海送り?求道師?それが何なんだよ!ただの伝説だろ!おとぎ話の筈だろ!俺を愛してるって…一体何なんだよ!!
何とか地下の霊安室に逃げ込んだ俺は一先ず息をついてその場に身を隠す。すると遠くから微かに俺を探す宮田先生の声が聞こえてきた。

「前はあんなに俺のことを守って戦ってくれたのに……酷いじゃないですか。今回は牧野さんなんて!」

そんなこと知ったこっちゃない。とにかく全く会話が噛み合わない。前回ってなんだ!?今回って?こんなことが何度も繰り返されているっていうのか?そんな馬鹿な!そんなはず!!

「……ッ!だれか……!」

助けてくれよ!誰でもいいから!だれか!だれか!
だれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれ

「俺が助けてあげますよ」

振り返るとそこにはうつくしく微笑むあなたがいて。頭の中でぐしゃりという音が響いた。

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