!学パロ
!サンジ兄主(2010年あたりに書いたものです)
腹の虫が情けない音を立てる昼。俺は授業修了の合図と共にダッシュで教室を飛び出した。目指すは愛しの購買だ。うちの学校の購買の競争率は限りなく高い。そりゃもう激しい争いは必至だ。馬鹿みてぇに強い奴らが一斉に押し掛けてパンを奪い合う様はまさに圧巻というか阿鼻叫喚である。俺はその中でも、いつもそれなりに上手くパンをゲットしてきた。でも今日はヤバイかもしれない。英語の授業が5分ほど長引いたのだ。この5分は大きい。
大きく跳躍して階段を駆け降りる。一階の廊下を走って昇降口を目指せば購買はすぐそこだ。
「んあ?エースどうしたんだ?」
階段を降りるとそこには腕に大量のパンを抱えてそのうちの3つばかりを一気に口に頬張っているルフィがいた。
「おいルフィ!購買は?!」
「んん!今日も激しい戦いだったぞ!まあエースが居なかったからいつもより楽だったけどな〜」
ニシシ、と笑うルフィに首を振って違う!もう終わっちまったかって聞いてんだ!と問い掛ける。するとルフィは明るく笑ってもう終わったぞ?と呑気に答えた。俺はその言葉にがっくりと項垂れる。
「はぁ〜。マジかよ……」
頭使ったから甘いもん食いたかったのに……。
ないと分かると余計に食べたくなるのが人情である。朝コンビニで買えばよかったなどと後悔してももう遅い。
俺はルフィと別れるとそのままふらりと校内を歩きだした。マルコはコンビニだし、ハルタの弁当は小せぇからなァ……。サッチの弁当でもつつくか……。
俺は大きく息を吐いて廊下をだらだらと歩き出す。頭の中は甘いもんで埋め尽くされている。やべぇ滅茶苦茶甘いもん食いてぇ……。
普段そんなに食べない分だけ余計に食いたくなる。
「はぁ……甘いもん食いてぇー」
肩を落として歩いていると突然扉の開く音がして突き当たりの教室から人が出てきた。思わず顔を上げた俺はそこで目に入った長い金髪に目を見開いた。あれ、あいつだ!ルフィの友達の兄貴!
奴は顔をあげると自分のことを凝視する俺を見つめて「あ?」と首をかしげる。そして目を細めてこちらをじっと見つめるとああ、と納得したような声をこぼした。
「ルフィの兄貴か」
奴の呟いた言葉に俺は目を見開く。ルフィのことは、知ってるのか?
驚く俺に奴は呆れたように目を細めるとよくうちの店で騒いでどか食いしていく、と腕を組んで呟いた。……ルフィ。
「うちの弟が迷惑を……」
「別に、お前んとこのは皆綺麗に食ってくから気持ちいいしな。ただ騒ぐのはいただけねぇが」
目の前の男が唇をつり上げてニッと笑う。どこか爽やかなそれに俺も思わず笑顔になった。ヤンキーみたいな見た目だが意外と好青年だ。
「それよりあんた、今甘いもん欲しいって言ってなかったか?」
「え!?ああ……まぁ……」
聞かれていたのか。かっこ悪ィ。
俺は照れ隠しに頬を掻いて笑う。すると奴は丁度いい、と明るく笑って鞄から何かの包みを取り出した。微かに甘い香りが辺りに漂う。
「試作品だ。甘さ控えめのアップルサイドダウンケーキ。自分で食うより他人に食ってもらった方がいいからな。やるよ」
旨そうな匂いに思わずゴクリと喉が鳴る。いいのか!?と確認して顔を上げれば、奴は綺麗に笑って俺に菓子の包みを押し付けた。
「腹減ってんだろ?その代わり感想聞かせろよな」
その笑顔に俺は釘付けになる。無邪気な笑みは普段仏頂面なこいつからは考えられないくらいに眩しくて。
「(なんでこいつ……キラキラ光ってるんだ?)」
じゃあな、と遠ざかる背中が見えなくなるまで俺はぼうっとその場に惚けていた。手のひらに残された菓子とあいつの消えていった先の廊下を交互に見つめて顔を手で覆う。
どうしよう。勿体なくて食えねェ!
顔を赤くする俺に無情にも昼休みを終えるチャイムが高らかに鳴り響いた。
(お!エースなんか旨そうなもん持ってんな!くれよ!)(バッカ!触んじゃねぇサッチ!!)(え?なんでマジギレ!?)