!10巻ネタバレあり
!104期恋人主
!コレのベルトルト視点
僕の恋人はとても可愛くて、そしてそれ以上にとても格好いい。今だってそうだ。僕は彼の頭を撫でながらその愛しさに笑みを浮かべる。ナマエ。好きで好きで堪らない、僕の恋人。
訓練を終え汗を流してさっぱりとした姿で大部屋に戻ると、そこには既に横になって僕を待つ恋人の姿があった。待っているうちに訓練の疲れで眠ってしまったのだろう。安らかに呼吸を繰り返す姿はどこか無防備で、僕は微笑ましい気持ちで彼の名を呼んだ。
「ナマエ?」
僕の声にゆるりと目蓋を開けた彼はゆっくりとした動作で起き上がると僕を見上げてベルトルト、と小さく名前を呼んだ。ただそれだけで僕の心臓は熱をもって跳ね上がる。ナマエ、格好いいなぁ。
「うん。僕だけど……。なぁに、ナマエ。寝てたの?」
そう問いかけるとナマエは愚図ったように僅かに頭を振って僕に抱きついてきた。どこかあどけない仕草を残したそれにじんわりとした喜びと愛しさが募る。ナマエってば寝ぼけてるな。こうしたときの彼はすごく幼い。素直に甘えてきてくれるこの時が僕は何より好きだった。だってこれって、僕だけの特権だ。
「お前ら……他所でやれ。他所で!」
抱き合う僕らを横目で見つめてライナーが呆れ顔で咎める。それを無視して強くナマエを抱きしめた。特別なナマエの姿を他の人に見られるのは、例えライナーが相手でも嫌だった。だって彼は僕だけの恋人で、その姿を見ていいのは僕だけの筈だ。僕の、ナマエなのだから。
腕の中の恋人を抱きしめて僕はそっと瞳を閉じる。僕は本当に、とてもとてもナマエのことが好きだった。本来だったら好きになってはいけないのに。……彼らは、僕たちの敵なのに。それでも、もうどうしようもないことなのだ。徐々に鋭くなるライナーの視線を背中で受けとめて僕はそう心中で結論を出す。はじめから分かりきったことだった。いずれ故郷に帰る時が来ても僕にはこれっぽっちもナマエを手放す気なんかない。さよならなんて嫌だ。そんなことになるなら死んだ方がましだ。愛しい人と離れ離れになるなんてナマエだって嫌に決まっている。ライナーには恋人がいないからそれが分からないのだ。こんなにも狂おしく、人を好きになるということが。
僕たちだけにしか分からない沈黙が落ちた。ライナーは無言で僕を見つめた後で深く息をついて視線を逸らした。同時にナマエがするりと僕の首筋に擦り寄ってくる。
「ナマエ?」
彼の名を呼ぶがナマエは無言で僕にしな垂れかかってきた。ふわりとナマエの香りが近くなって僕の鼓動は途端に早鐘を打つように高鳴る。ナマエは喉の奥で微かに笑うと、べろりと首筋を舐めた。僕はそれだけで堪らなくなる。
ナマエのことが好きだった。恐らく、この世の何よりも。そしてそう考えるたび、僕は自分が"あの"力を持ち合わせていることに深く感謝する。好きで好きで堪らない僕の恋人。僕は誰にも渡したくない。触れさせたくない。見せたくない。ナマエには僕だけ見て欲しくて、僕だけ感じて欲しくて。離れ離れになんか、絶対になりたくなくて。だから。
腕の中の恋人が、猛禽のような顔をして密やかに笑う。刹那走ったうなじの甘い痛みに僕は悲鳴をあげそうになった。そう。そうだよ、ナマエ。そこが僕の弱点。僕より小さく儚い、人の体を抱きしめて微かに嗚咽を漏らす。
ああ、すき。好きだナマエ。君とずっと一緒にいたい。ひとつになってしまいたい。優しくて格好良くて、こうしてたまに甘えてくれる。何にも知らない僕の恋人。ナマエ。僕は。
「(きみを食べてしまいたい)」
その為に君は人で、僕は巨人の力を持ちうまれてきたのだろう。故郷に帰るその日、僕は漸く君の全てを手に入れることが出来るのだ。