短編(old)
!10巻ネタバレあり
!104期恋人主




俺の恋人は本当に本当に可愛い。勿論惚れた欲目もあるかもしれないが、それを差し引いてもお釣りが来るくらい非常に可愛いらしいのである。俺よりも大きくて強いのに、気弱で大人しくて流されやすい可愛い人。なんて愛しい、俺のベルトルト。

今日の訓練を終えて汗を流した俺は、大部屋を覗いてその定位置に恋人の姿がないことを確認して肩を落とした。今日は訓練が普段より早く終わったからベルトルトたちは今頃きっとシャワー室にでも居るのだろう。まだ人のそう多くない部屋の中は閑散としていて普段の賑やかさが嘘のようだった。暇を持て余した俺はいくつもある二段ベットの一番奥まで行くと、そのうちのひとつにひょいと登った。これはベルトルトのベットである。隣はライナーで、部屋の一番奥の窓際に位置している。入り口近くの下段である俺からしたらものすごく羨ましい限りだ。頼むライナー、代わってくれ。ベルトルトの隣だなんて狡すぎる。

そんな取り留めもないことを考えながらベルトルトのベットに横になった。ふわりと彼の匂いが全身を包み込む。手持ち無沙汰になって枕元に置いてあった本をパラパラとめくってみたがたいして読みもせずに、そっと目を閉じた。目を瞑るとベルトルトの匂いだけが強調されて、なんだか彼のすぐ傍に居るような気分になる。目を閉じたまま彼のことを考えた。ベルトルトの柔らかい髪、頬。困ったように笑う表情。立体機動をしている時の凛々しい姿。全部好きだ。ベルトルトが、好きだ。


これは自論であるが、俺は魅力的なことはそれ自体が罪だと思う。可愛い、格好いい、美しい、強い、恋しい。これらは全てプラスの感情だ。これにより俺はベルトルトを見るとその可愛さに身悶えたり、愛しさに叫び出したくなったりする。勿論分別があるため実際にそんなことをしたりはしないが、彼を見たとき俺の心は大いに揺り動かされ、乱されるのである。そう、乱されるのだ。魅力的なものには、心を掻き乱される。俺はベルトルトと触れ合うたびに彼が可愛くて愛しくて堪らなくなる。そしてそれが、どうしても耐えられない。ベルトルトが好きで好きで堪らない。けれど、どうしてもそれで心乱されることが嫌だった。これは俺の持ち合わせている、非常に厄介な屈折した性質だ。

いつもそうだ。良い香りの花を見つけたとき、綺麗な蝶を捕まえたとき。俺は自分の心が掻き乱されることに耐えられなかった。花は全て摘んで二度と芽吹かないようにしたし、蝶は根こそぎ捕まえて愛でた後で全て火に焼べた。そうすることでそれらの放つ魅力にざわざわとざわめきたっていた心は静かになり、俺は漸く落ち着くことが出来る。

俺は惹かれ、執着してしまうものを全て手中に捉え、絶やすことで心の安寧を保っているのだ。好きだから、好き過ぎるから虐げたい。美しい鳥を見ると翼をいでやりたくなる。愛らしい兎を抱き上げるとその首をきゅっと締めてやりたくなる。そうすると、ほら。愛しさにざわめきたっていた心は漸く静かに息をし始めるのだ。なあ、ベルトルト。好きで好きで堪らない、俺の恋人。

「ナマエ?」

突然耳に飛び込んできた柔らかな声に、俺はゆっ
くりと目蓋をあける。まだ微睡から覚めない瞳に写るのは俺の心を掻き乱して止まない、恋しい人だ。

「ベルトルト……」
「うん。僕だけど……。なぁに、ナマエ。寝てたの?」

ベルトルトが優しく笑って俺の頭を撫でる。後ろにチラッとライナーの姿も見えたが無視して寝ぼけた振りをしたままベルトルトに抱きついた。他所でやれ!なんて声がしたが構わずベルトルトの首筋に擦り寄る。ナマエ?なんて俺を呼ぶ声が堪らなく愛しかった。好き。お前が好きだ、ベルトルト。そのせいで俺は四六時中お前のことばかりで。そわそわといつも落ち着かなくて。あーぁ。

「(お前が巨人だったらいいのに)」

そうしたら愛しいお前のうなじを削いで。お前は蒸発して、この世に骨すら残さず消えてしまって。そうして漸く俺の心は静かに落ち着きを取り戻すのだろう。好きで好きで堪らないベルトルトの息の根を止めて。ああ、それってたまんねーや。

寝ぼけた振りをしたまま彼の首筋を舐める。うなじに歯を立てるとベルトルトがビクリと身を震わせた。気を良くした俺はうっそりと微笑んで、そのまま甘く噛み付いた。

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