!同級生
!元恋人
!コレの続き
「ナマエ、また来てるぞ」
呆れたような友達の声に俺は少し辟易しながら振り返る。放課後の閑散とした教室の入口には、この間俺をこっ酷くフってくれた仁王雅治がこちらをじっと見つめて佇んでいた。
俺たちが別れて一週間。仁王は何かとこちらの教室に足を運んでは、俺に視線を送り続けていた。最初はスルーしていたけど、一週間も続けば流石に鬱陶しくなってくる。そろそろ我慢するのも阿保らしくなってきた俺は椅子から立ち上がると足速に仁王に近付いた。目の前までやって来た俺を大して驚きもせずに彼がじっと見つめる。
「俺に何か用?」
同じように仁王を見返せば彼は探るように俺を真っ直ぐ見つめたあとで来んしゃい、と一言残して教室を後にした。疑問符を浮かべつつもその後に続く。久しぶりに見た彼の背中は、付き合っていた頃と何ら変わらない気がした。
暫く仁王に従って階段を昇ったり廊下を渡ったりしていると漸く目的地がみえてきた。だんだんと薄暗くなる階上。天辺にある錆びたドアノブを回せば眩い光が階下に差し込んだ。あの日、俺と仁王が最後に一緒にいた場所。晴天の屋上。
あの時と同じに、俺たち以外は人っ子一人いないこの場所で、再び向かい合う。こちらを振り向いた仁王の考えていることはやはりさっぱり分からない。もともと、俺は彼のそんなところが好きだったのだけど。
「ミョウジ」
一週間ぶりに仁王が俺の名を呼んだ。
ん?
俺は首を傾けてそれに応える。仁王の眉が不満げに潜められた。いつも飄々としている彼には珍しいことだ。怒ってる……のか?
「最後のアレは何じゃ」
「アレ?」
分からない。アレ……ってなんだ?
特に心当たりのない俺はただ首を捻るしかない。きょとんとした俺に焦れたのか仁王は苛立たしげに眉を顰めた。
「だから……。……噛み付いて、きたじゃろうが」
ぼそりと呟いた仁王の言葉に俺は漸く合点する。ああ!と声を上げれば忘れとったんか、と息をつかれた。
「で、アレは何なんじゃ」
「んー?何がどうっていうか、ずっとしたかったから」
さらりと答えれば仁王は不可解そうに目を丸くした。何だろう。付き合っていた頃よりも感情の起伏が豊かだ。
「したかったって……噛み付くことをか?」
「うん」
ぶっちゃけ噛み付く以外にもしたいことは沢山あったけど。
髪の毛をわしゃわしゃくしゃっとしたい。泣かせたい。振り回したい。いじめたい。怒らせたい。つんとすましている人はぐちゃぐちゃにしたいと思う。悲しんだり、怒ったり。俺に振り回されるその人はとても可愛いと思うから。
そう正直に言うと仁王は歪んどるのう、と呟いてじっと俺を見つめた。そっと彼が俺の制服の裾を掴む。
「でも俺は、そういうの嫌いじゃないナリ」
どこか期待のこもった瞳で仁王が俺を見上げる。つり上がった薄い唇も上目遣いに俺を見る切れ長の瞳も、あの頃と変わらず非常に整っている。
「ミョウジ、もう一度俺と付き合って」
今度は我慢なんてせんでも構わんから。そう言う君は酷く魅力的だけど。
「ごめん。俺、恋人には優しくする主義だから」
しかももう彼女出来たし。ほんと、ごめんなぁ。