短編(old)
!部活仲間
!転生主



彼は不思議なものが好きだ。俺はその事を知っている。もう、ずいぶん前から。

「千歳!」

珍しくきちんと部活に参加している千歳を見かけてそのでっかい背中に声をかける。大儀そうに振り返った彼は俺の姿を視界に入れるとゆるりと笑った。

「なんね、ナマエ」
「べっつに!用はないけどな。お前が最初から部活に居るの珍しいと思ってさ」

千歳の部活への出席率は授業に比べればましだが、そう高くはない。それなのにレギュラーの座を毎回ちゃっかりキープしているのだから、きっちり参加している俺が平部員なのに対して世の中とは不公平である。天は二物を与えけり。こいつとか白石とかに。

「ナマエもたいがへんこつもんちね。俺だってテニス部員ばい」
「だーってお前そんなこと言いつつも参加率そんなよくねーし?俺とクラスもちげーし?久し振りに会えたってのにそりゃないだろ」

俺がそう言って笑えば千歳は暫く間をおいたあとでそうね、とだけ返した。その素っ気ない態度に俺は軽く息を吐く。

「つれねぇなァ」

そう呟くと俯き気味だった千歳が少し顔を上げた。逡巡するそぶりを見せたあとで漸く口を開こうとした千歳を馬鹿みたいに呑気な声が遮る。

「まぁたナマエが千歳に絡んどるわ。ええ加減にせえっちゅー話や」
「謙也ふざけんなマジクソぶっ飛ばすぞ」

突然割って入ってきた謙也を睨み付ければ奴はんな顔すんなや!と言って大袈裟な動作で突っ込んできた。話を遮られた千歳は一瞬ハッとしたあとで安心したように小さく息をついていた。何なんだ。一体。

「お前一体なんの権限があって俺の邪魔するの?死にたいの?この早い星カッコワライは」
「安易な直訳すんなや!!俺は千歳がまたナマエにウザ絡みされとるで助けたっただけや!」
「ウザ絡みって何だよ。お前の方がウザ気色悪いわ!何がスピードスターだ!小二か!」
「スピードスター馬鹿にすんなやハゲェ!!」
「ハ……ッ!どこに目ェつけて言ってんだボケナス!」
「ドアホ!」
「ヘタレ!」
「バカタレ!」
「早漏」
「酷っ!もう絶交や!!」
「無理。俺お前のこと好きだもん」

平然と言い放てば謙也は簡単に勢いを削がれたようでいきなりなんやねん!ハズいわ!と言ってこちらに掴みかかってきた。分かりやすい照れ隠しにニヤニヤ笑って千歳の後ろに隠れる。可愛いもんだな中学三年生。
どさくさに紛れて千歳に抱き付けばビクリと巨体が震えた。俺ってそんなに心許されてないのか?悲しいぞ。

正直いって俺と千歳はそんなに親しい方じゃない。俺は結構積極的に絡んでいくが、千歳は一歩引いた感じだ。昔から四天の奴らと滅茶苦茶仲いいってイメージではなかったけど、やはり橘や熊本が恋しいのだろうか。細かいことは俺にも分からない。俺は顔を上げてその癖の強い藍色の頭を見つめる。

千歳とはそんな微妙な感じの俺だが、謙也たちとはそれなりに仲が良かった。レギュラーメンバーでいったら白石や小春。銀なんかとは親友レベルだ。それでも俺が一番好きなのは目の前で身を固くしているこいつ、千歳千里なわけで。
一番よく見ているぜ。お前のこと。よく行くのは裏山で好きな食いもんは馬刺。獅子楽に居たけど橘との一戦で目を怪我して四天宝寺に転校。才気煥発と神隠しを使う無我マニアで全国大会では橘に勝って――手塚に負ける。知っている。これは、未来のこと。

「千歳ってさ、俺のこと嫌い?」

狡い聞き方だ。
後ろからひょいと顔を覗かせると曖昧に視線を泳がせた千歳は困ったように眉を下げた。

「そんなこつなか……好いとおよ」

あー、中学生は素直で可愛い。

「そっか、じゃあ良かった」

俺はほっとして笑みを浮かべた。良かった。この聞き方して駄目だったらガチで落ち込んでるとこだった。

生憎ながら俺は素直でも可愛くもない。ついでに言えば本来は中学生でもない。ひねくれてて冴えないただの一般男性だ。愛読書はテニスの王子様だった。好きなキャラクターは千歳千里。
俺は目の前に居る生身の千歳を見つめて笑みを浮かべる。俺は意地悪だから教えてやらないよ。こんなにも近くにお前の大好きな不思議が転がっているなんて。俺とお前が別れる最後の最後くらいになら、したり顔で教えてやるから。それまで仲良くしててくれ。
な、千歳千里くん。

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端から見ると主→千だけど本当は主←千。千歳は本当に主のことが好きだけど主の好きはキャラクターとしての好き。だからどこか中身がない。きっと千歳が告白したらすべてが一気に現実になる。狡い大人はツケを払うときが来るのです。

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