落ちて空に星がこの手で

最後にナマエと会ってから何日経っただろう。あれから毎日通勤と帰宅の度に連絡を入れてみたが、ナマエが捕まることはなかった。
焦りばかりが生じるが、未だにオレは何故彼から避けられるようになったのかも分からないままだ。恋人同士というわけでもないのに、会いたくて……苦しい。まさかこんな風になるとは自分でも思っていなかった。
仕事場では努めていつも通りに取り繕ってはいたが、たまたまこの間実家に帰ったタイミングで母に「なにかあった?」と聞かれてしまった。

結局堂々巡りで結論が出なかったから、オレはナマエと直接会って話をすることに決めた。いつまでもひとりで悩んでいるのは性に合わない。オレ自身が、全然ナマエのことを知らないというショックな事実にも気付いたことだ。もっとキミのことが知りたいと。避けられるような何かをしてしまっただろうかと、正面から向かい合うことにした。

ダンデはひとつ深呼吸をしてスマホロトムに向き合う。
《ナマエ。突然すまない。今どこにいるだろうか?話がしたい。》
祈るような思いで簡潔に用件を送った。

〓〓〓

一方その頃、ナマエはキルクスタウンのステーキハウスでふたりの友人とエールをあおっていた。
話題の中心はもちろん新チャンピオンについてだ。当然ダンデの話題も出るので、すでに帰りたい気持ちになっていた。

「だーかーらーオレは新チャンピオンはチャレンジャーの時から勝ち進むって思ってたんだぜ!ダンデもいいけどやっぱ期待のホープだよな!」
「オレなんてチャンピオンとバトルしちゃったもんねー!……!あの時リーグカードもらっとけばよかったな、しまった……」
「はあ?ユウヤお前マジで……!ありえねー!どこでいつのまに!」
「9番道路のビーチだ!筋肉を鍛えにちょっと……な、フフ……」
「お前まだビーチで筋トレ続けてたのか?全然羨ましくねぇわ。バカは寒くても風邪ひかないからな……」

コイツら結構酔ってるな……。
すぐに脱線する友人達の雑談を無心で聞き流しながらチビチビ酒を飲む。するとオレの口数が少ないことに気付いたのか、酔っ払いのバカが絡んできた。ステーキの刺さったフォークが指を指す要領でビシッとこちらに突きつけられる。

「ナマエはどうなんだよー?さっきから妙〜にスカしてっけど!」
「ナマエはポケモンバトル素人だからなぁ。ダンデくらいは知ってるだろ?元チャンピオンの!ほれほれ!リザードンポーズ!」

ニヤニヤしながら三本指のポーズを決めるユウヤを横目に見てヒラヒラと手を振る。暗にそういう気分じゃないとアピールしてみたが、酒の入ったバカには通じるはずもなく「まさかリザードンポーズ知らないのか?!」と余計に絡まれる結果になった。

「うるせえなそれくらい知ってるよ。ダンデがなんだか知らないが、興味ないね」
「おいおい、コイツぐずってるよ」
「もしやダンデの隠れファンだなオマエ。チャンピオン引退は確かに残念だったけどさあ。機嫌直せよオイ」

ビシビシとリザードンポーズをした手で頬を突いてくるのにイラついて、止めろと語気を荒げようとしたら、ロトムが勢いよく鞄から飛び出してきた。「メッセージが来たロト!」というロトムの言葉にバカは無視したまま、その場で読みあげるよう頼む。

『ナマエ、突然すまない。今どこにいるだろうか?話がしたい』

相手が思い当たらず、誰からのメッセージだ?と聞こうとしたが、それを言う前に横からの大声がオレを遮った。

「今キルクスのボブの店で飲んでるよ〜ん。オマエも来いよ!」
「ハア?!」

なに勝手に返事してんだよ!

「返信したロト〜」
「えっ!」

ニコニコ笑ったロトムが跳ねながら鞄に戻っていく。

「おい何すんだバカ!」
「ダイジョーブ!多分ガクだって。アイツ今日山登り終わったら合流したいって言ってたし」
「アイツ話がしたいってキャラか?」
「マスター!エールおかわり!」

ダメだ。多分いくらイラついてもキレても今のコイツらには効果がない。
もう全てを諦めてメシだけに集中することにした。幸いにもこの店のステーキはとてつもなく美味い。

しかし気分を変えるために友達に会ってんのに、全く気分転換にならなかったのは最悪だ。普段あまり気にしていなかったがコイツらがポケモンバトル大好きなこと忘れてた。ダンデさんのこと考えるとモヤモヤするから、頭から排除したかったのに。
チャンピオン交代なんてビッグなニュースがあったばかりならそりゃその話になるよなぁ、なんて考えながら白熱するリーグ談義をなるべく耳に入れないよう適当に相槌をうっていると、勢いよく店の扉が開いた。ガクが来たのかと思って視線を向ければ、店内に歓声が上がった。

「ダンデさんだ!!」
「元チャンピオン!」
「マジで?!」

目を疑った。そこに立っていたのは未だオレを悩ませる偶像、ダンデその人だったからだ。

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