「こうか?」
「構えはそれでいいけど、もっと上を狙うといい」
やって来た粗戸市街の射撃場。
親父さんは現れた俺に気さくに声をかけると続いて現れた神代淳に慌てて頭を下げた。
…どうやら神代の権威とやらは俺が思っているより強かったらしい。
あっさりと中へ通された俺たちは神代淳のこいつの銃がいい、の一言により何故か俺が親父さんから銃を借りるはめになってしまった。
本当に我儘だなこいつ。
そんなこんなでいざ銃の扱いを教えてみると、意外とセンスがあって驚いた。
どんどん命中率も上がってくる神代淳に俺は久々に楽しい気持ちになる。
「なんだ!案外簡単じゃないか!」
「調子に乗るな。上手いのは確かだが、危険な武器なんだからもっと慎重に扱え」
「煩いな。お前僕に抜かされそうだから焦ってるんじゃないか?」
「そういうのは全弾的にかすらせてから言うんだな」
「…ッ黙れ!すぐに出来る!」
むきになって的を狙う神代淳に俺は笑みを浮かべる。
そんなに力んだら当たるわけがない。
案の定弾は的を大きく外れて地面に着弾した。
苛立たしげに地団駄を踏む神代淳に俺は小さく笑い声を漏らす。
親父さんはその様子をはらはらしながら見守っていた。
なんだかこっちが申し訳なくなる。
「そろそろ帰るぞ」
「何でだよ!まだ全弾当たってない」
尚も銃を構えようとする神代淳に呆れ混じりに息を吐いてライフルを奪う。
「返せ!」
「その辺にしないと肩を壊す。また来ればいいだろう?」
俺の言葉に神代淳は不満そうに口をへの字に曲げたがやはり肩は痛むようでふん、と息を吐いて俺に従った。
初日でこれだけ撃てれば上等だ。
親父さんに借りた銃を返して礼を言うと心配そうに見つめられた。
言いたいことは何となく察せられたので軽く手を振って射撃場を後にした。
親父さんには迷惑をかけっぱなしで申し訳ない。
「ま、こんなものか。お前に追いつくのもすぐだな!」
「甘いな。明日は筋肉痛で嘆くことになる。覚悟しておけ」
「…ならお前だってそうじゃないか」
「俺は慣れてる」
微かに唇に笑みを浮かべると神代淳は悔しそうに眉根を寄せた。
「…すぐに追い付くからな!」
「楽しみにしている」
実際神代淳は才能がある。
この分なら基礎をしっかりしておけばかなり精度が上がるだろう。
そんなことを考えつつ他愛ない話をしていると不意に神代淳が前方を見つめて声をあげた。
「宮田」
つられて俺も顔を上げる。
そこには白衣に身を包んだ男が鞄片手に佇んでいた。
「これは、淳様」
無感動に呟いて頭を下げるその男、宮田司朗に俺は僅かに眉を寄せる。
彼の噂は、よく耳にしていた。
警戒心を露にする俺に神代淳が驚いたように軽く目を見開く。
宮田司朗は興味無さげにこちらを一瞥すると往診があるので、といって去っていった。
俺は難しい顔でその姿を見送る。
「なんだお前、宮田のこと嫌いなのか?」
「…いや」
小さく呟いて俺は歩き出した。
不思議そうに首を傾げた神代淳がそのあとに続く。
「何なんだよ」
小さな神代淳の呟きだけが暗い帰り道に木霊した。
…いや
(その先は言わない)