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【ノボリさんと心中の話】
「ちょっと予想外だった」俺がそう言うとノボリさんは僅かに首を傾げて「如何しましたか?」と問い掛けてきた。俺は何となくバツの悪さを感じながら彼に思っていたことを吐露する。「いや、ノボリさん仕事命じゃん?だから最初は地下鉄でっていうのがいいのかなーと思ったんだけど」俺の言葉に彼は微かに口元に笑みを浮かべると優しい口調で応えた。「仕事を大切に思っているから…でございます。お客様や皆様に迷惑はかけられませんから。ダイヤを守ってきっちり運行!でございます」「ほんと、俺の考えが至りませんでした。遅延、ダメ、絶対!」そう言って笑うとノボリさんも「そうでございます」といって微笑んだ。

ガタゴトと独特のリズムで揺れる感覚が心地よい。地下鉄で、だったら恐らくこの車両も未だ運行出来ていなかったかもしれない。やはりノボリさんは俺と違って人間が出来ているな、と頭の中で考えて彼の手を握った。「本当に、いいの?」そう極めて真剣な声音で問い掛ける。彼はなんでもない調子で「はい」と返事をして俺に頭を預けて寄りかかった。彼にしては、珍しい行為である。「わたくしを選んでくださってありがとうございます」そう言って俺の首元に顔を埋めるノボリさんを見て、胸の奥が温かくなった。「幸せだなァ」小さく呟いた俺の言葉に「はい、とても」とノボリさんも小さく頷く。ガタンゴトンと揺れながら電車は行く。その最果ての駅の一番静かで一番美しい場所で、俺たちは死にに逝きます。

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