◎ 合宿スタート(1/5)
朝起きたら暖かい朝ごはんが机いっぱいに並んでいて、父さんと母さんが眠そうな俺を笑いながら迎えてくれた。
ランドセルを背負って玄関を出て少し歩けば見えてくる二人の親友の姿。
みんなで好きなヒーローの話をして、自分たちもそんなヒーローになりたいねって言い合ったそんなありふれた日常は…
いつも夏に終わりを迎えた。
「!」
鳴り響くアラームによって目を覚ます。
朝はいつもすぐに起き上がれず布団の中でうだうだするのは日常だけど、最近はその時間がめっきり長い。
だるい身体にムチを打って目を擦りながら起き上がると誰もいない家の中で朝の支度を進める。
「…………今日からか…」
解凍したご飯の上に納豆をかけただけの簡単な朝ごはんを食べながら呟く。
夏休み。
林間合宿当日。
◇
雄英高校に着くと集合場所には1-Aのメンバーと1-Bのメンバーが同じ場所に集まっていた。
確かにクラスは違えど同じヒーロー科だから合宿の行き先やカリキュラムは同じか。
すると物間が嬉しそうに俺らA組を見ながら大声で言った。
「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれえ!?」
通常運転の物間に俺らは呆気に取られてると動じることなく拳藤が首に打撃を決めて物間を黙らせ引きずりながら一言。
「ごめんな」
「(流れるようなお決まりの展開…!!)」
するとそんな拳藤に続き、B組の女子たちが声をかけてくれた。
「物間怖っ」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」
「ん」
「よりどりみどりかよ……!!」
「コラ。やめとけ」
「おまえダメだぞ。そろそろ」
B組女子に手を出しかねない峰田を切島と共に引っ張りながらA組のバスへと乗り込んでいく。
これから始まる林間合宿。
あくまで強化合宿なのだがクラスメイト全員で遠出する機会なんてほとんどなかったのもあり、バスの中の皆のテンションはめちゃくちゃ高い。
「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」
「ポッキーちょうだい」
「音楽流そうぜ!夏っぽいの!チューブだチューブ!」
「バッカ夏といやキャロルの夏の終わりだぜ!」
「しりとりのり!りそな銀行!う!」
「ウン十万円!」
「…………」
そんな浮かれた生徒たちに相澤先生は呆れて言葉を失っていた。
……ん?俺はと言うと……
「おーいハルー!音楽何かいいのね…」
「すぴー…」
「寝てるぞ」
「嘘だろ!?轟起こしとけよ!」
「乗った瞬間寝たから無理だ」
「おーい!おーきーろー!!」
上鳴の呼び掛けに俺の意識が徐々に浮上していく。
薄らと開けた視界の先には嬉しそうに笑う上鳴の姿。
「……ん…なに…?」
「起きた!夏におすすめの音楽ねえ!?」
「音楽…?」
ボーッとした頭で必死に考える。
そして半開きで(恐らく)不細工な顔のまま言った。
「夏……バンドならミセスとかsimukaとかガリガリ……ヨルカシも爽やかで良いし、アゲアゲでいきたいならレンジやマニワとか───」
「ちょ!多い多い!」
「てか音楽なら耳郎とかも詳しいんじゃないの…?」
「確かに!おーい耳郎ー!!」
「うわっ上鳴何!?」
悪いな耳郎。
上鳴の相手は任せた…!
そう思って再び眠りにつこうと思ったけど、ふと隣にいる轟が目に入る。
もともとすごく喋るタイプではないからそれに甘えてさっきも寝てたんだけど、せっかくのバス移動で隣の俺が寝てるのって…考えたら申し訳ないな…。
すると俺の視線に気づいたのか轟がこちらを見る。
「俺のことは気にすんな。眠いなら寝とけ」
「!」
か…神かよ…!?
ここは轟に甘えて寝かせてもらおう…。
だけど他のみんなと喋る様子ないな……そうだ!
「轟。良かったら音楽聴く?」
「?なんでだ」
「喋り相手になれない代わりに……あ、ワイヤレスだからカップルみたいな感じにはなんないぞ!それにいらないならそれはそれでもちろん大丈夫!」
「(カップル?何言ってんだ?)」
轟は顎に手をあてて考え込んでしまう。
そんな姿を見て俺も突然何言ってんだ…とちょっと反省していると予想とは反した返事が轟から返ってくる。
「俺は音楽よくわかんねえけど…せっかくだから聴いてみる」
「!わかった。じゃあ……轟はアップテンポとバラードだったらどっちのがいい?」
「???」
「あ、えーとアップテンポってのは───…」
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