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ヒーローとは見返りを求めてはならない。
自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。

徐々に昔の記憶を思い出す中、鮮明に蘇る1つの思想。



「英雄回帰」



俺の“個性”が万人受けしないからとしょうもない理由で見限られたあの時。
この思想は俺が社会に感じていた違和感を代弁してくれたようで救われた。


昔憧れたヒーローは顔出しもしない、様々な活躍をしていながら自ら公表しなかったため、存在自体が危ぶまれている都市伝説のような人。

地位も名誉も何も関係ない。
自分の意思でヒーローとして“実際にこの目で”人々を救う姿を見て俺は憧れた。




「もう大丈夫」

「……!」




昔の俺はそんなヒーローになりたかった。







敵連合、アジト内。



「死柄木行っちゃったけど放っておいて良いの?」

「…そんなに気になるならあなたが探して来てください。野狐」



黒霧の返答に狐面で顔の半面が見えないながらも容易に想像出来るほどあからさまにめんどくさいと言わんばかりの表情を浮かべる

野狐は少し考えた後、やれやれと首を横に降ると外へと出かける準備を始めた。
狐面を外し黒いマスクを付け、キャップを深く被る。
それを見て荼毘が漏らした。



「おまえは面つけてるから顔割れてないんだろ。隠すとかえって目立つと思うが」

「だからこそだろ。下手にバレて今後の活動に支障が出る方が困る。面割れてないやつは一人くらい必要だ」

「…………」



狐面をつけていた時とは違い、野狐の瞳が顕になる。
色素の薄い亜麻色の瞳が荼毘を捉えた。
荼毘は野狐の発言に対して、納得も不満にも思っているようには見えなかったが、あえてそれ以上は何も追求することはなかった。



「黒霧、ゲート」



黒霧が“個性”のゲートを発現させる。
いってくるなと手をヒラヒラと降ると野狐はゲートへと消えていった。

姿が見えなくなった時、義爛が黒霧へと問いかけた。



「あいつに任せて大丈夫なのか。まだ……安定してないんだろ?」

「…………」



義爛が他の二人に聞こえないように黒霧へと耳打ちをする。
その時、黒霧は話題を変えるようにゲートが発現していた場所を見つめている荼毘へと声をかけた。



「野狐が気になりますか?」

「………気色ワリィんだよ、アイツ」

「さっきと同じこと言ってますね!」

「外面と中身がちぐはぐ…違和感を感じる」



それを聞いた黒霧が言葉を詰まらせた。
そんな些細な変化に気づいのか荼毘がじっと黒霧へと視線を向ける。
すると視線に気づき観念したかのように黒霧は話し始めた。



「彼の身体には他人の精神が入っています。今主導権を握っているのは他人の方ですから…それで違和感を感じるのかもしれないですね」

「???」

「もっと単刀直入に言ってくれ。曖昧に言われるとかえってわかりにくい」



頭に疑問符を浮かべるトガとはっきりと物事を言う荼毘に義爛は小さく笑みを浮かべる。
そんな二人に堪忍したのか黒霧は話し始めた。



「……身体は温田正弘という少年。しかしあの身体の中では温田正弘と行血汐(ぎょうち しお)の二人分の精神が存在しているのです」

「ほう?」

「今は精神の主導権を握っているのは行血汐で身体の持ち主とは違うため違和感を感じたのでは、と申しました」

「…………」



荼毘は黒霧の話を聞いて少し考えた後になるほどと小さく呟く。



「野狐…温田正弘と行血汐の話を聞かせて欲しい」

「それは死柄木弔の返答次第です。もう少々お待ちください」

「じらしますねー!とても気になります!」

「…………」

「……安心してください。先程も申しましたが───」



きっとあなた方も自分自身も納得するお返事を導き出すはずです。





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