◎ エンカウンター(1/5)
すでに廃墟となっているバー店内。
死柄木は緑谷の写った写真を見つめていると突如現れたのは武器などを調達し仲介する闇の大物ブローカー義爛(ぎらん)の姿。
義爛はタバコを吹かしながら扉を覗き込み死柄木へ声をかける。
「死柄木さん。こっちじゃ連日あんたらの話で持ち切りだぜ。何かでけえ事が始まるんじゃねえかって」
「で、そいつらは?」
写真を握りつぶすと“個性”によって跡形もなく崩壊していく。
義爛の前には身体中ツギハギだらけの男とセーラー服を身にまとった少女の姿があった。
「生で見ると…気色悪ィなァ」
「うわあ手の人。ステ様の仲間だよねえ!?ねえ!?私も入れてよ!敵連合!」
「…………黒霧。こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず」
突然の拒絶に少女の口から思わずはあ?と言葉がもれる。
カウンター越しに立っている黒霧はそんな死柄木をなだめながら話を伺うように声掛けた。
「あの大物ブローカーの紹介。戦力的には間違いはないハズです」
「何でもいいが手数料は頼むよ、黒霧さん。紹介だけでも聞いときなよ」
義爛は連れてきた二人の自己紹介を始める。
まずは制服を身にまとった少女。
未成年ということもあり名も顔もメディアが守ってくれているが「連続失血死事件」の容疑者として追われている。
「トガです!トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!」
トガは変わらず笑顔を浮かべながら話し続ける。
「ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ、弔くん!」
「意味がわからん。破綻者かよ」
「会話は一応成り立つ。きっと役に立つよ。次、こちらの彼目立った罪は犯してないがヒーロー殺しの思想にえらく固執している」
「不安だな…この組織は本当に大義はあるのか?まさかこのイカレ女入れるんじゃねえよな?」
「おいおい。その破綻JKすら出来ることがおまえは出来てない。まず名乗れ。大人だろ」
死柄木の言葉を聞くと男は無表情のまま言った。
「今は“荼毘(だび)”で通してる」
「通すな。本名だ」
「出すべき時になったら出すさ。とにかくヒーロー殺しの意思は俺が全うする」
「聞いてないことは言わないでいい。どいつもこいつもステイン、ステインと…………」
苛立ちを見せながら死柄木は椅子から立ち上がる。
その様子を見て何やら察した黒霧が死柄木を制止する。
「いけない死柄木…」
「良くないな…気分が良くない」
死柄木から発せられる殺気に荼毘とトガは反応を示す。
すると死柄木は二人目掛けて手を伸ばす。
「駄目だ。おまえら」
攻撃を仕掛けようとした死柄木に対抗すべく荼毘は同じように素手を、トガは隠し持っていたナイフで反撃しようとするが黒霧のワープによって防がれてしまう。
その様子を見た義爛はタバコを吹かしながらため息を吐いた。
「落ち着いて下さい死柄木弔。あなたが望むままを行うのなら組織の拡大は必須」
そして黒霧はそっと死柄木の耳元に近づくと他の三人に聞こえない声で呟く。
「奇しくもその注目をされている今がその拡大のチャンス。排斥ではなく受容を───死柄木弔。利用しなければ全て………彼の遺した“思想”全て……」
「…………うるさい」
黒霧の言葉を聞き、手を引っ込めると奥の部屋へと消えていく。
そんな彼を義爛は引き留めるがうるさいと拒絶すると音を立てて扉を閉めて出ていってしまった。
すると義爛達が入ってきた扉から覗く狐の面を被った野狐の姿。
野狐は先程の一部始終を聞いていたらしく茶化すように言葉を漏らした。
「うちのリーダーは…なんというか幼稚だなー。大丈夫なんかねー」
「野狐。どこへ行ってたんですか?」
「ん?ちょっと散歩だよ。お腹すいちゃって」
そう笑いながらコンビニの袋を見せびらかす。
その様子を見て義爛は言葉を漏らす。
「取引先にとやかく言いたかないがえらく自由だな。そして肝心のボスは……若いね。若過ぎるよ」
「殺されるかと思った!」
「…………」
笑顔で言うトガとは対照的に荼毘は無表情を貫いたまま死柄木が出ていった扉を見た後に野狐へ視線を向けると呟く。
「……気色ワリィ…………」
「あははは〜嫌なやつ」
「…………」
「返答は後日でもよろしいでしょうか?彼も自分がどうすべきかわかっているハズだ…。わかっているからこそ何も言わず出ていったのです」
オールマイトに、ヒーロー殺し。
敵連合は二度鼻を折られた
「必ず導き出すでしょう。あなた方も自分自身も納得するお返事を…」
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