◎ 平和の象徴(1/5)
突然黒い液体に飲まれてハルが消えていき僕らは戸惑いを隠せない時に僕のスマホが鳴る。
震える手でスマホを操作し出てみると轟くんからだった。
《緑谷。そっちは無事か?》
「二人とも連れて逃げ切ったんだけど、さっきいきなりハルが黒い液体に飲み込まれて……!!」
《飲み込まれた……?》
《!轟さん!》
「どうしたの!?」
《……おい!そっちでオールマイトの中継見れるか!?》
「緑谷くん!」
それを聞いた瞬間、人混みをかき分けて中継が放送されるモニターが見える位置まで移動する。
僕はそれを見て目を疑った。
《さっきのとこにハル戻ってるぞ…!!》
先程までそばにいたハルがそこに映っていたから。
いてもたってもいられなくなって僕は来た道を戻ろうとするが飯田くんによって引き止められてしまう。
離してと叫びながら振り返るとそこには眉をひそめて悔しそうに唇を噛み締める飯田くんがいた。
「ダメだ緑谷くん…!!」
先程の奇襲に二度目はない。
相手のボス…あいつに通用できる者は俺らの中にはいない。
行ったら救けるどころか殺されてしまう。
そう僕に言い聞かせる飯田くんの傍らにいる切島くんは俯いていて、かっちゃんは眉間に皺を寄せて信じられないといった表情を浮かべていた。
今までの僕だったらその手を振りほどいて戻ってたと思う。
だけど、握りしめる腕から感じる震えが飯田くんの怒りや悔しさを物語っていて、“救けたい”気持ちを堪え、悪者となって僕を引き止めてくれる彼の手をもう振り解けなかった。
「プロヒーローを…オールマイトを信じよう」
◇
全壊したビルや家屋。
コンクリートが禿げて土が顕になった地面。
そこに立つ光と闇のトップたち。
先程まで目の前にいた友達の姿から一変した景色に絶望にも近い感覚が俺に襲いかかる。
「うそだろ……」
「ハル少年!?」
オール・フォー・ワンに殴りかかろうとしたオールマイトが突然“転送”により目の前に現れたハルに気を取られて攻撃に迷いが生まれる。
そこをつかんと言わんばかりにオール・フォー・ワンがオールマイト目掛けて攻撃をしかけ後ろへと飛ばされてしまう。
「オールマイト!!」
「呼び戻してしまってすまないね、ハル」
マスクをしていて表情などは一切わからないはずだがオール・フォー・ワンからじっと視線を感じた瞬間、もう逃げられないと本能的に悟る。
刹那、ハルに恐怖が襲いかかり、冷や汗が溢れ出し、息が段々と荒くなっていく。
そんなハルへオール・フォー・ワンが手を差し伸べた時に異変が現れた。
自身の意志とは反対に一歩一歩オール・フォー・ワン目掛けて歩みを進め始めたのだ。
その様子を見てオールマイトはまずいと思い体制を立て直そうとするがそれは間に合わずオール・フォー・ワンの元へハルはたどり着く。
「ハァ…ハァ……(身体が勝手に…なんで…!!?)」
「そんなに怖がらなくて良い。君には“生きていてもらわなければならない”からね」
ハルの意志とは反して、恐怖で震える手をオール・フォー・ワンが差し伸べた手に重ねる。
その瞬間、“譲受”が発生した時に発生する光が二人を包み込み、ハルの身体に激痛が走る。
「う…うあ、ああああああ……っ!!!」
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