◎ ワン・フォー・オール(1/3)
限界だーって感じたら思い出せ。
「(…思い出す…)」
何の為に拳を握るのか。
「(何の為に…)」
原点…オリジンってやつさ!
そいつがおまえを限界の少し先まで連れてってくれる!
「皆が笑って暮らせる世の中にしたいです。その為には…“象徴”が必要です」
◇
オールマイトが右手を握りしめる。
だが大規模攻撃を何度も相殺して、活動限界もとっくに迎えている。
右手のみのマッスルフォーム…その歪な姿が全てを物語っていた。
きっとこれが最後の一振りになる。
「手負いのヒーローが最も恐ろしい。腸を撒き散らし迫ってくる君の顔。今でもたまに思い出す」
オール・フォー・ワンもそんなオールマイトの攻撃を迎え撃とうと体制を整える。
もうすぐ…戦いに終止符が打たれる。
「げふ…っ……」
「!(ハル少年…!)」
流石に頭くらくらしてきた…口の中も鉄臭くてたまったもんじゃない…。
もう立てない…何も出来ない……。
だけど俺がいたらオールマイトが本気で攻撃できない…こんな所で邪魔になりたくないのに……!
「(……こんな時、あいつならどうすんだろ……)」
数日前に久々に“あいつ”の顔を見たからか…過去のあいつに縋ってしまった自分がいた。
根拠なんてないのに自信満々で話す姿がやけにかっこよくて…俺もそんな風になりたかった。
「(……今の俺に…出来ること………)」
「!あいつ…!?」
今も笑わなくちゃな。
俺は大丈夫だって笑わなくちゃ。
「おや…?」
「小僧止めろ!!!」
上空に浮かぶ鋭利な形をしたドライアイスの塊。
グラントリノの声が遠くで聞こえる…。
怒られちゃうかな…でも……いっか。
「…!?ハルしょ───」
「(オールマイト……ごめん)」
これでもう最期だから。
「
ハル!!!!」
◇
ドライアイスがハル目掛けて落ちてくる寸前にものすごいスピードで何かが横切っていく。
それが何か確認する間もなくハルを囲むように炎が上がるとドライアイスがみるみるうちに溶かされていく。
「なんだ!?煙で何も見えん…一体誰が───」
その時、オール・フォー・ワン目掛けて炎による攻撃が飛んでくる。
振り返った先にいたのは…
「────!」
「なんだ貴様…
その姿は何だ!オールマイトォ!!!」
No.2ヒーローのエンデヴァー。
そして…エッジショットを初めとする他のプロヒーロー達の姿があった。
「ハル!!!」
デーマンドはドライアイスが溶けたことで発生した煙の中にいるハルを救うべく飛び込んでいく。
それを見てヘルパットはやれやれといった様子で叫んだ。
「デーマンド!“ヘルプ”する!」
渡さないと言わんばかりにオール・フォー・ワンは黒い触手をハル目掛けて伸ばすが、デーマンドは“鬼手”によってそれを切り裂いていく。
そして…煙の中にいるハルを確保することに成功した。
「ハルを保護した!!」
「よし!撤退しろ!!」
ヘルパットの“ヘルプ”によって運動能力が飛躍的に伸びたデーマンドは気絶したハルを抱えるとマッスルフォーム時のオールマイトに引けを取らないほどのスピードで戦線を離脱していく。
無事に取り戻したが一刻を争う状況で安心はまだ出来ない。
みるみるうちに衰弱していくハルにデーマンドは必死に声をかけ続けた。
「ハル…!ハル!死ぬな!!」
prev|
next