◎ オール・フォー・ワン(1/5)
神野区内、雑居ビルの中に立つ廃倉庫を見ながら八百万が発信機の示す場所はここだと言う。
パッと見るとシャッターが降りている普通の倉庫で、普段なら気に止めることもないが、意識して見ればいかにもアジトと言った雰囲気を醸し出しており五人は生唾を飲み込む。
敵アジトを目前に念押しするように八百万は緑谷たちに声をかけた。
「敵がいるからといってハルさんや爆豪さんがいるとは限りません。私たちが今どれだけか細い情報でここに立っているか冷静に考えてみて下さい」
そんな八百万に続くように飯田も言った。
「耳郎くんや葉隠くんのようなスニーク活動に秀でた者はない。少しでも危険だと判断したらすぐ止めるぞ。友達であるからこそ警察への通報も辞さんからな…!」
「…………ありがとう飯田くん。出来る範囲で出来ること…考えよう」
すると緑谷はお得意のブツブツと高速独り言を言いながら案を考える。
そんな様子を見て切島と八百万はいつもの緑谷だと表情を綻ばせた。
だが飯田は目を伏せ、拳を握りしめ緑谷の返事を待っていた。
「(そう…君は一度決めてしまえば止まらない…止まれない!そんなところを友として…ライバルとして…尊敬しているんだ。だがこれ以上は譲れない────…)」
今度は俺が護るんだ。
「電気が点いてねーし、中に人がいる感じでもねえな」
「木を隠すなら森の中…廃倉庫を装ってるワケだな」
「正面のドア、下に雑草が茂ってる…他に出入口があるのか?どうにか中の様子を確認出来ないものか…」(ブツブツ)
「おい」
これからどうするか考えていると突然背後から声をかけられ慌てて振り向くとそこにいたのは───…
「ホステス〜!何してんだよホステス〜!俺たちと飲みましょ〜」
「やーめとけバカ!」
酔っ払い二人組の姿。
すでに敵連合に顔が割れてしまっているためバレないようにとドンキ買った服で変装をしており、中でもドレスをまといゴージャスな雰囲気を纏う八百万を見て絡んできたのだ。
慌ててそんな八百万の前に飯田と緑谷が躍り出る。
「パッパイオツカイデーチャンネー」
「オッラァ」
「一旦離れよう」
カオスな状態になる前に轟の冷静な判断により近場の自販機前に撤退する一行。
多くはないが人通りがある通りに廃倉庫は面しているためあまり目立つ行動を取ることは出来ない。
話し合った結果、裏から周り様子を見ることになった。
狭いビルとビルの間をなんとか進んで行くとちょうど肩を借りれば建物内を見れる位置にある窓を発見する。
「この暗さで見えるか?」
「それなら私、暗視鏡を…」
「いや!!八百万、それ俺持って来てんだな実は」
そう言いながら切島は暗視鏡を取り出す。
「ええすごい何で!?」
「アマゾンには何でもあってすぐ届くんだ。一つしか買えなかったけどやれる事考えた時に…要ると思ってよ」
「それめっちゃ高いやつじゃない!?僕もコスチューム考えてた時に見てたけど確か5万くらいしたような…」
「値段はいんだよ。言うな」
そして轟が緑谷を、飯田が切島を肩に乗せると早速買ったばかりの暗視鏡を使って切島は窓から中を伺う。
だが次の瞬間、“何か”を見てしまったのか顔を真っ青にして暗視鏡を離して後ろに仰け反ってしまう。
「どうした何見えた!?切島!!」
「左奥…!!緑谷左奥!!見ろ!!」
暗視鏡を受け取った緑谷は窓の中を見つめる。
フォークリフトや荷物など倉庫の中にありそうなものが無造作に置かれている中、切島の言う左奥には倉庫には似つかわしくない“あるもの”がそこにあった。
「ウソだろ…!?あんな…無造作に………アレ……全部“脳無”…!!?」
prev|
next