◎ 記念撮影(1/5)
その日は底冷えする朝だった。
布団にくるまって目を閉じる。
でも何故か頭がどんどん冴えていって、俺はゆっくりと布団から出た。
冷えきった部屋にぶるりと身をふるわせる。
近くにあったパーカーを羽織って1階へ降りた。
「(さすがにまだ誰も起きてないか…)」
談話室の暖房をつけて、キッチンにあるケトルでお湯を沸かす。
「…あ」
ふと窓に目をやると雪がちらちらと空から降っていた。
曇った窓を服の袖で拭って俺は窓の外を眺めた。
「(どうりで寒いわけだ)」
カチッとケトルがお湯が沸いたことを知らせる音が響く。
それに気づくと俺は棚からマグカップと紅茶のティーパックの入った缶を取り出した。
このティーパックはヤオモモが皆に、と置いてくれていたもので蓋を開けると茶葉の良い香りが鼻をくすぐる。
そこから1つ取り出すとゆっくりお湯を注いだ。
マグカップから湯気と一緒に紅茶の香りが立ち込める。
そこから少し時間を置いてしっかりと茶葉から抽出されたの頃合に俺はよく冷ましながら紅茶を口に運ぶ。
が……。
「あぢっ」
こういう暖かい飲み物の1口目はいつも火傷してしまう。
今度は気をつけて…しっかり冷ましてから飲もう…。
今度は火傷せずに飲めて冷えた体に暖かい紅茶が染み渡るのを感じながらほっと一息ついた。
「(眠いけど…こういうのも悪くないかも)」
そんな事をしてるとチンっとエレベーターの音が響く。
そっちの方に目を向けると眠そうに大きな欠伸を零す爆豪がいた。
まさか誰かいると思っていなかったのか爆豪は目を見開いて俺を見ていて、それが可笑しくて俺は笑った。
「おはよ」
「なんでテメーがいんだよ。寝坊助」
「二度寝したかったんだけど目が覚めちゃってさ。今日は爆豪と轟の補講最終日だからちょうど良いかなって」
早く出ると轟から聞いてたから朝は会えないかもと思ってたからタイミング良かった。
「爆豪もヤオモモの紅茶飲む?今ならハルさんが愛情込めて入れてやるぞ〜」
「気色悪ィ。茶だけ寄越せ」
「はいよー」
「…つーかお前マジの寝起きだろ。頭爆発してんぞ」
「バレたかー。ま、爆豪とオソロってことで」
「誰が爆発頭だ!」
たわいのない会話を交わしながら入れ終えた紅茶を爆豪に差し出す。
ん、とぶっきらぼうに受け取ると俺と並んで窓の雪を見ながら紅茶に口をつけた。
「……まずまずだな」
「んーヤオモモが入れてくれた時はもっと美味しかったけど…まあご愛嬌ってことで」
「ふん」
俺はエレベーターの方を見る。
もうすぐあいつも起きてくるかな…。
そう思ってると爆豪が口を開いた。
「心配しなくてもそのうち来るだろ。テメーみたいに寝坊助じゃあるまいし」
「確かにな。轟と爆豪もついにだな」
「…………」
「もしかして緊張してる?」
「誰がすっか。やっとてめえに追いつく。覚悟してろよ」
「はいはい」
こんな日でもいつもの爆豪で俺は笑みがこぼれた。
ふとパーカーのポケットに手を突っ込んだ時、あるものが入っていることに気がつく。
そうだと思って俺はそれを握りしめた手を爆豪に差し出した。
「ん」
「…は?」
「手!出してみて」
「……断る」
「いいから!」
無理やり爆豪の手を掴むとそれを握らせた。
あからさまに怪訝そうな顔をする爆豪をなだめながら俺は笑った。
「オールマイトのキーホールダーお守りにあげる」
「……いらねえからって押し付けんなや」
「いやいや。オールマイトにガチャガチャ用のグッズサンプル押し付けられたのそのままにしてたとかそんなんじゃないから」
「全部言ってんじゃねえか」
「ナンノコトヤラ」
「ったく……」
「あ、でもさ。このコスチュームレアだって。確か─────なんだっけ?」
「……ブロンドエイジ」
「それそれ!オールマイトには珍しいシック調のコスチュームだよな。てかやっぱり爆豪もオールマイトのこと詳しいよな」
俺がそう聞くとふんと鼻を鳴らす。
そして爆豪はオールマイトのキーホールダーをじっと見ながら言った。
「こういうのはデクの方が喜ぶだろ」
「かもな。でも緑谷にはトランプあげたし……あ。爆豪も緑谷に負けず劣らずオールマイトファンだろ?それに今日は大事な日だし─────爆豪なら大丈夫だって思ってるけどNo.1ヒーローが一緒なら心強くない?」
そう言ってニッと笑った。
すると爆豪は呆れながら小さく笑った……ような?気がして珍しいと驚いているとちょうどタイミングよくエレベーターの到着を知らせる音が響く。
それと同時に爆豪は紅茶をごくごくと飲み干すと洗面所の方に向かっていった。
「?ハル。早いな」
「轟おはよ。目ェ覚めちゃってさ。さっきまで爆豪と喋ってた」
「そうか。それより……頭すごいことになってんぞ」
「やっぱりやばい?爆豪にも言われたんだけど…」
「なんというか……緑谷と爆豪を足して2で割った感じか」
「てめえ!クソデクと一緒にすんな!!」
轟の発言を聞き付けたのか爆豪が洗面所のある方から顔をのぞかせて鬼の形相で睨んでいた。
そんな爆豪に動じることも無く轟は悪い、と一言謝ると洗面所に向かって支度を始めた。
そんな2人を横目に俺も残った紅茶を飲み干すと後を追いかけた。
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