◎ ある雨の日の話(1/5)
《今夜から明け方にかけて局地的豪雨が発生する模様です。ハザードマップを確認し、必要に応じて安全な場所へ避難しましょう》
お風呂上がりでまだ濡れた髪をタオルでゴシゴシと擦りながらテレビを見つめる。
雨風によってガタガタと揺れる窓を見ながら峰田が口を開いた。
「マジで雨やべーじゃん!下手したら寮飛ぶんじゃねーの……」
「そりゃないない。3日間の突貫工事とは言え、しっかりした作りだし大丈夫だって」
上鳴の言葉に峰田もそれもそうかと納得していた。
そんな2人のやり取りをぼーっと見てると首にかけていたタオルが突然頭にかぶせられてわしゃわしゃと擦り付けられる。
「ハルくん!また君は髪を乾かさず…風邪をひくぞ!」
「すぐ乾くから大丈夫だって」
「君は下手したら髪が濡れたままでも寝落ちしてしまうだろう!緑谷くん!」
「任せて飯田くん!」
飯田は俺の頭を粗方拭き終えたことを確認すると頭に乗せていたタオルをばっと避け、休む間もなく緑谷がドライヤーの電源を入れて髪を乾かしていく。
二人の完璧な連携に周りからもおーっと声が漏れる。
「デクくんと飯田くんの鮮やかなコンビネーション!」
「いや。ハルは自分で髪乾かしなよ」
「耳郎の言うことはもっともなんだけどさ。俺、髪短いからすぐに乾くからドライヤーいらないって言ってるんだけど……」
俺がそう言うと後ろから感じる二人からの静かなる圧。
「オカン二人が……な?」
「あー…なるほどね」
「体調崩してたんだし暖かくしなくちゃダメだよ」
「そうさ。ちなみに真冬になったら轟くんも完備してるからな!!な!轟くん!」
「……?おう」
「いや、轟なんのことかわかってないだろ」
いつもと変わらないやり取りをして、各々部屋に戻ろうとエレベーター前で待っていた時だった。
ブツン。と無機質な音が鳴ったと同時に部屋の中が暗闇に包まれる。
いきなりの事に女子の一部がきゃっと悲鳴をあげた。
「なになに停電!?」
「暗くて何も見えないよ〜!」
「皆さん落ち着いてください。私がすぐに灯りになるものを“創造”しますわ」
そう言うと八百万は懐中電灯とランタンをそれぞれ数台ずつ“創造”する。
轟にランタンの火を灯してもらうと部屋の中が明るくなり見渡せるようになった。
幸いにも誰もエレベーターに乗っていない時に停電したため誰も閉じ込められることなく、たまたま21人全員が1階にいたこともあり大きなパニックも起こらなかった。
梅雨ちゃんがきょろきょろと見渡しながら呟く。
「停電かしら…」
「なら俺の出番?」
やってやるぜと意気込む上鳴を見て常闇がストップをかけた。
「まだ緊急事態が起こっている訳ではないし上鳴の“個性”に頼るのは早慶ではないか?」
「だな。とにかく相澤先生から連絡来てるかも─────お。やっぱり」
クラスの連絡用のグループチャットを見てみると相澤先生からメッセージが来ており、俺がそれを伝えると各々スマホを取りだして確認をしていた。
「《天候不良により雄英の一部施設にて停電が発生。復旧作業に当たっているため生徒たちは寮内で1箇所に集まり待機すること。何かあれば俺まで連絡するように》だってさ」
「んじゃ一旦談話室で待機すっか!」
「けっ」
切島の提案もありエレベーター前から談話室へとみんなで戻っていく。
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