◎ 彼は何故立ち続けたか(1/6)
この日はなんだか胸がざわざわしていた。
落ち着かないような…
嫌な予感がするような…
そんななんとも言えない感覚で、
《臨時ニュースです!九州の───で、突如“怪人脳無”が出現!エンデヴァー・ホークスを初めとするヒーローたちが現場に急行し対処に当たっています!!》
一人で部屋にいたくなくて一階に降りた。
するとついていたテレビから映し出されていた信じ難い光景が俺の目に飛び込む。
脳無が街中で暴れ回り人々が逃げ惑い、ヒーロー達が奔走していた。
その脳無はUSJや神野で見た奴らとは明らかに違い、自分の意志を持って動いていた。
強靭な肉体、複数の強力な“個性”を持つだけでなく思考まで加わった奴にNo.1ヒーロー…エンデヴァーですら苦戦を強いられているのがわかった。
《ああ今!!見えますでしょうか!?エンデヴァーが!!この距離でも眩しい程に!!激しく発火しています!!》
「(あの技───!)」
“赫灼熱拳”は炎を超高温に圧縮し、留めて放つ一撃必殺。
威力は凄まじいが体温が上昇し、身体機能の低下を招く。
────親父の体は熱が篭もり続ける。
この弱点を克服出来れば“赫灼熱拳”を連発することが出来る。
もっと威力の高い炎技を放つことが出来る。
親父になし得なかったこと。
そう。だから……だから俺は……
「(プロミネンスバーン…!!)」
“赫灼熱拳”より更に威力が高く、全身から超高温の炎を放出する超必殺技。
脳無はその炎に包まれていく。
誰もがエンデヴァーの勝利を確信したその瞬間。
《残ネン》
《エンデヴァーさん!!》
首をちぎって投げて直撃を逃れていた脳無は頭部から再生していきそのままエンデヴァーに攻撃を仕掛ける。
その攻撃を避け切ることが出来なかったエンデヴァーは顔から大量の血を流し地面へと落ちていく。
「…………」
左側が熱い。
「おまえが胸を張れるようなヒーローになろう」
「轟…!」
「轟くん…!」
「父はNo.1ヒーロー。最も偉大な男であると」
画面から目が離せない。
俺を心配する声が遠くで聞こえる。
「…………」
答えなくちゃ。
俺は大丈夫だと。
答えなくちゃいけないのに……
体が動かな────
「
轟!!!」
バンと玄関が開いたかと思うと俺目掛けて青い影が走ってくる。
そして俺の両肩を掴むとまっすぐ俺を見ながら言った。
「大丈夫だ」
「!!」
そう一言言うと肩から手を離し、俺の隣に立ってテレビを見つめた。
「(……いつも…ハルは俺の欲しい言葉をくれるな…)」
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