◎ 標的13 山本トレーニング(1/4)
徐々に太陽が登ってきているのか、カーテン越しに光が入ってくる。
隣の部屋のツナもみんな眠っているからまだ静かで、だからこそいつもは気にならない秒針の進む音がやけに気になる。
うっすら開けた目で時計を確認すると時刻は5時前で、起きるにはまだ早い時間だったため、もう一度目をつむる。
「……眠れない」
寝ようと思えば思うほどどんどん頭が冴えてきて、このままぼーっとするのも勿体ないと思い、朝の軽いジョギングへ行くことに。
服を着替え、寝ているみんなを起こさないようにそっと部屋から出て、玄関で靴を履き替えていた時だった。
「ちゃおっス」
「!リボーンか…おはよ」
さすが最強のヒットマンと言うべきか、気配を完全に消し葵の後ろに立っていた。
何故かいつものスーツではなく野球のユニフォームを身にまとっていた。
リボーンはニッと笑いながら葵に尋ねる。
「こんな早くにどうしたんだ」
「目が覚めちゃって。せっかくだからジョギングでもしてこようかと」
「なるほどな」
するとリボーンは軽やかにジャンプすると葵の肩に着地する。
どうやらリボーンもジョギングに付き合ってくれるようだ。
まだまだ寒い並盛の朝は気持ち良くて、大きく伸びをした。
「そういえばどうして今日はスーツじゃないんだ?」
「それはな――」
「?」
◇
少し時間は経ち、場所は変わって並盛町にある小さなバッティングセンターへ。
受付にいるおじさんが眠そうにあくびをする中、山本は130キロのバッティングマシンから繰り出される投球を軽々と打ち、ホームランと書かれた的へボールを狙うが、惜しくもその左にボールは飛んでいく。
「ちっ(あと、もーちょっと…)」
なかなかホームランを出せず、山本は苦々しい表情を浮かべる。
それから少し経つとバッティングを終え、受付のおじさんに話しかける。
「おっちゃん、朝早くから悪ぃーな。今朝はこれくらいにしとくわ」
「なんだよ、別に構わねーからもっと打ってきゃいーじゃねーか。どーせ学校じゃいつも寝てんだろ?」
そういいながらおじさんは意地悪そうな笑顔を浮かべる。
そんなおじさんに言ってくれるぜと山本も苦笑いを浮かべ、ポケットから小銭を取り出しいつもの、と言うと、おじさんはいはいと紙パックの牛乳を渡す。
「そういえば前に一緒に来てた……あの男の子」
「葵のことか?」
「そうそう」
「葵がどうしたんだ?」
「あの子野球部にでも入ってるのか気になってね」
「?野球部どころか部活にすら入ってないぞ」
山本の言葉におじさんは驚き大きく目を見開く。
そして少しだけ困ったように笑いながら言った。
「少し前に1人で来てたんだけど、その時130キロで軽々とホームラン連発しててね」
「まじか!?(スゲェ……!!)」
「なのにまさか帰宅部だったとは……あの子には驚かされてばかりだ!」
自分のことではないのに、友達が褒められているのが嬉しくて山本も笑みがこぼれた。
そして話によるとここに来る度に葵はホームラン棒を買っているらしいが、いつも当たりが出ないと悔しそうにしているとか。
少し前にした些細な約束を覚えていてくれたことが嬉しくて、少しだけ山本はくすぐったさを感じていた。
「こりゃ負けてられないな!オレも変化しねー球くらい全部狙った所に打てねーとな!」
「へっ!とんでもねー事を簡単に言いのけやがって」
「そのためにもトレーニングするぞ」
突如聞こえてきた山本にも聞き覚えのある声。
振り返ると肩にリボーンを乗せた葵が立っていた。
「あ、山本!」
葵は山本とおじさんに気づくといつものようにニッと笑いかける。
そんな葵に応えるように2人も笑った。
「ちゃおっ…ス……」
「お、葵と小僧じゃねーか」
「おはよう。朝早いね」
するとリボーンは大きな鼻ちょうちんを膨らませながら器用に肩に乗ったまま寝ていた。
いきなりの事でおじさんは驚きを隠せずにいたが、それとは裏腹に葵と山本は笑った。
「無理して起きてきたんだな。面白ぇ!!」
「だね。あ、おじさんこの子は大丈夫だよ、眠ってるだけだから」
「…そ、そうか。……ん?今日は打っていかないのかい?」
扉に手をかける葵に問いかけるおじさん。
そんなおじさんに「リボーンを家に連れて帰らないといけないから」と言った。
すると山本はリボーンを連れて帰らなければいけない葵を気遣って、自分の家の方が近いから寄っていけばと提案する。
葵はそんな山本の優しさに甘えて、家に寄らせてもらうことに。
「ありがとな、山本!」
「!」
葵の笑った顔見るとつられて笑顔になる自分がいて――
気づけばいつも笑顔になっていたんだ。
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