「おれはしあわせだった」シズちゃんはわたしのせなかをあったかい腕でぎゅうぎゅうとしめつけた。わたしの肩のあたりにかおをうめたシズちゃんのきらきらのかみのけが耳をくすぐる。シズちゃんのいつも吸っているおきにいりの煙草のにおいでわたしの肺がいっぱいになって、わたしはシズちゃんのシャツにほっぺたを寄せた。「ねえ、シズちゃん」わたしがそうつぶやくと、シズちゃんはいつもみたいにつぶやく。「その呼び方すんな」いつもとなんにもかわらない夜みたいで、このままふたりで毛布にくるまってねむってしまえば、いつもとかわらない朝がきて、ふたりでいつもとかわらない朝ご飯をたべるのかもしれない。そんなことをかんがえてしまうくらいに、シズちゃんの腕のなかにはわたしのしあわせがつまっていた。「シズちゃんなら、隕石がきてもしなないんじゃない」「なんだそれ」シズちゃんは、わたしのあたまをかるくはたいてわらった。わたしもけらけらわらった。「おれは、おまえがすきだ」そうつぶやいて、シズちゃんはわたしの肩をひたりと濡らした。わたしもシズちゃんのシャツを濡らした。ほんとうは、シズちゃんともういっかい朝ご飯をたべたいなあ。しょっぱいなみだの味がくちのなかに広がって、かおをしかめる。ゆるゆるとシズちゃんの手がわたしのあたまを撫ぜるものだから、わたしはしあわせでしあわせで、もういっかいシズちゃんのシャツをびしょびしょにした。「そろそろだな」気がついたら窓の外はまっかで、ああ、もう地球は隕石で粉々になってしまうんだなあとぼんやりおもう。「シズちゃんのことだいすきだよ」ちいさくつぶやくと、シズちゃんはわたしのせなかにまわした腕にぎゅうと力をこめた。もうこれで、きっとさいごのひとつのしあわせ。

「おれは、しあわせだ」


きみだけ二本足なんてずるいや
Apr 30
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