しにたくなんてなかったよ。ケーキをホールでまるごと食べるのもやってみたかったし、クローゼットにしまってある買ったばかりのワンピースも着てみたかったし、もっともっとたくさん、きみとおしゃべりもしたかった。ふつうのおんなのこでいれたなら、それでかまわないのに。これからのわたしはもう、きみといっしょに学校に行ったり、いっしょにテレビドラマをみたり、いっしょにココアをのむことだってできないのだ。わたしはきっとそのうち、神さまに天国か地獄かにふりわけられて、そうしたらこうして風介のかおをみることさえ、できなくなってしまうんだろう。



「幽霊って、けっこうつまらないや」

「おなかもすかないしねえ、のどもかわかないの」

「退屈なんだよわたし、ねえ風介、ふうすけ?」



風介のふたつの目からは、なみだがひとつふたつと、ぼろりぼろりこぼれている。わたしがいくら風介のなまえをくちにしたって、風介はぼうっと一点をみつめてしょっぱいみずをながすだけ。風介の耳にも目にも、きっとわたしはいないのだ。ふうすけ、ふうすけ、ふうすけ。手のひらを伸ばしてみても、空気にとけているわたしは風介にさわることができない。


「ふうすけ、ねえ、ふうすけ」


風介のなみだがとまらないせいか、わたしの目からもしょっぱいみずがあふれだした。幽霊でもなみだをこぼすことがあるのかなんて呑気にかんがえていると、心臓のあたりがふわりと浮いたかんじがして、すけているわたしのからだがゆっくりと色をなくしていく。わたし、もういかなくちゃあいけないの?天国と地獄、どっちに?いいや、そんなことどうだっていい。どっちだっていきたくなんかない、ふうすけ、ふうすけ、ねえ、こっちむいて。「ふうすけ、」きえかけたわたしのこえが部屋に木霊する。風介の眉がぴくりとうごいて、ふたつの目がわたしをうつす。「    」風介がなにかいうけれど、もうきこえない。さいごにみたのは、わたしのほうに伸びる風介の手のひら。わたしのぬれた目蓋をだれかのゆびが拭ったような気がした。きっと、それだけ。


遺骨をかじる
Apr 23
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