ごめんね。オレンジ色のかえりみち。きみの歩幅もやわらかい空気も、いつもとこれっぽっちもかわらないなかで、ひとつだけちがうことがひとつ。いつもあたたかいはずのきみのてのひらがほんのすこし、つめたい。
どうして、あやまるの?きみの睫毛がふるえたような気がして、のぞきこんでみた。きれいなかおは歪んでいる。かなしいような、むなしいような、さみしいような、いろんなものが入り混じったような。きっとわたしもおなじようなかおをしているんだと思うと、よくわからないけれど胸のあたりがすこし軋んだ。
おれはきみのことがすきだよ。やわらかくってあまいきみのにおいがわたしの体をつつんだから瞼をとじる。わたしの耳に風のおとが通りぬけた。きみの心臓のやさしいおとは、いつもとちがってきこえなかった。
わたしだって、すきだよ。ぬれたきみの瞼に手をのばしながら、きみのすきなところをひとつひとつことばにする。それをききながら、きみはしずかになみだをながして、ひとつひとつに頷いてくれた。
おれ、しあわせだったよ。きみはわたしの頬にくちびるをよせて、ほんのすこしだけくっつけた。これがきっとさいご。やわらかい感触がうれしくて、くるしい。わたしもしあわせだったことをきみにつたえたくて、うつむいたかおをゆっくりあげる。だけどわたしのすきなひとは、もうどこにもいなかった。
しんじゃうなんてずるいや。やさしくてかわいいわたしのだいすきなひとが、天国で神様にあいしてもらえますように。なみだが瞼にたまる。ぎゅっと目をつむると、案の定なみだがぼろりと頬をすべった。そんなときいつもわたしの頬をぬぐってくれるあたたかい指先は、やっぱりもうどこをさがしてもみえなかった。さむいさむい夜だった。

「きみとしあわせになりたかった」


世紀末、きみの夜
Sep03




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