「私はこれからどうすればいい、」
彼の三角の目のなかをいっぱいにしていた家康は、彼のなかからすっかりいなくなっていた。たくさんの秀吉さまとたくさんの家康でうめつくされていた彼のなかみは、もうきっと空っぽになってしまった。目のまえでひんやりつめたくなってじいと動かない家康をぼんやりと視界のすみっこにいれて、彼はただただきれいななみだをぼろりぼろりとこぼしているだけ。「みつなり、こっちむいて」はじめてさわる彼の頬はおもっていたよりもつめたい。濡れてひかった彼の目がわたしをうつしたとき、おなかのあたりがぶるりとふるえた。「わたしがいるよ」細い背中にゆっくりと腕をまわす。彼の目蓋がわたしの肩を濡らした。これでやっとわたしは、彼のなかみにすこしだけでもはいりこむことができる。そうおもったらうれしくってしあわせで、わたしも彼の肩をぬらした。きたないわたしもぜんぶぜんぶ巻き込んで、彼のなかにすいこまれてしまいたい。
片目で眺めた愛は醜い
May 30
こわくないよさまに提出
ありがとうございました
soup/くまこ