ただただ、蕾見不二子は探し続けた。 誰一人として頼る者がいなくなった今、真実を掴む方法はない。 だからこそ渦中にいる人物を見つけ出さなければならなかった。 戦争が終わり荒れ果てた町をひたすら探す。僅かな感覚だけを頼りにして。 狙われる者は予想できている。虱潰しに当たれば何処かで会えるはずだ。 耳を劈くような悲鳴に走る速度を上げた。 そうして訪れた場所は凄惨なもので。撒き散らされた血と臓物。幾度と無く戦場で見てきたが、あまりにも酷い有様だ。 何人が死んだのか分からない。それほどまでにぐちゃぐちゃにされた体を見て、思わず吐き気が込み上げた。 実行した者への怒りがなければ、すぐさま気絶していただろう。 「きょう、すけ」 呼び慣れた名前を弱々しい声でしか紡げない自分に腹が立つ。 いつも通りに呼びたかったのに。対等の存在であると思わせたかったのに。これではまるで彼に対して恐れ、怖がっているようではないか。周囲から同じ扱いを受けていたのに、自分までもがそんな態度を取ってしまうなんて。 けれど少年は特に気にする様子を見せず、にこやかに挨拶をした。 「やあ不二子さん、どうしたのさ?服がボロボロだよ」 「…っ、あ、あなたが特務部隊の関係者を殺し回っていると聞いて…」 「探し回っていたの?それはすまないね、ご苦労様」 笑顔に不釣合いな冷ややかな瞳はまるで別人だった。存在を否定したかった。誰かの催眠による偽物なのだと。目の前にいる兵部京介は別人なのだと。 ならば、どれほど良かったことだろう。 自身の直感が本人だと告げているのに。 「ちょうど良かった。不二子さん、君も一緒に行こう」 「行くって…何処へ…?」 にたりと醜悪な笑みを浮かべて、京介はさらに肉を引き裂いた。 「ノーマル共への復讐さ…!地球上から全てのノーマルを根絶やしにするんだ。そうすればエスパーだけの世界が完成する!僕と君なら、きっとできるよ。ね、不二子さん!」 言葉が出てこなかった、震えだけが走った。 自分が何を言っているのか理解しているのか?とても普通の精神状態だとは思えない。 痛々しく残る額の傷が見えて、あの男のせいかと憎しみが募る。あの男が裏切ったから京介が変わってしまった。あの男が裏切らなければ。 「…馬鹿げてるわ…!そんなこと、あたくしがすると思って!?」 「………そう」 顔色一つ変えずに京介はパチンと指を鳴らした。 途端に、町中の建物が崩壊していく。疎開した場所だから人はいないはず。だけど、こんなことを平気でするなんて。 絶句している自分を一瞥した京介は、背を向けて歩いて行く。 待って、と呼び止められるはずなのに、声が出なかった。 |