※半パラレル


 ―――時折、頭が酷く痛む。
 銃弾が飛び交う廃屋の中を走り抜け、物陰に身を潜めながら状況を確認する。
 相手は十人程度だが銃火器を所持している。装填する弾がない今、持っている銃は使い物にならない。
 さてどうやって逃げ遂せようか。砂埃が舞う空間で、気配と音を頼りに、タイミングを窺っていた時だった。

「手を貸そうか」

 背後から聞こえた声に驚いて振り向けば、見知らぬ少年がしーっと口元に人差し指を当てた。思わずもう一度大声を出してしまいそうになって、慌てて自身の口を押さえる。
「誰だよ、お前」
「呑気に自己紹介をしている暇なんてないと思うけど」
 少年の目が横に動いたことに気付いて、咄嗟に身構える。すると男が銃をこちらに向けて発砲しようとする寸前だった。
 まずいと思うも耳は既に銃声を捉えていて、反射的に目を瞑った。
 けれどいつまで経っても撃ち抜かれる衝撃はやって来ない。
 ゆっくりと目を開けると目前で銃弾が静止していて、撃った男は屍と成り果てていた。
 突然のことに目をぱちくりさせると、隣にいた少年がにこりと笑う。時が止まったわけではない、この妙な現象は。
「…お前…エスパーか」
「その通りさ、アンディ・ヒノミヤ」
 何処で名前を知ったのかは聞く気にもならなかった。
 なるほどエスパーならば理解できる。今、自身の首にぶら下がっているリミッターはオンになっているから、超能力も使うことができるだろう。
 辺りに襲撃者の仲間がいないかを確認して、死体から武器になるものはないか探す。所持していたのは銃が二丁。
 使えるかどうかだけ確認をして、改めて少年に向き直った。
「助けてくれたことは感謝する。でも、俺はエスパーが大嫌いだ」
「へえ、だから?」
 それでも飄々とした態度を崩さない少年に、苛ついた。
 気付かれないようにリミッターをオフにする。

「だから、死ね」

 ドンッ。
 サイレンサーがついていない空間に銃声だけが響き渡る。
 今の音で居場所が見つかるかもしれない、早く逃げなければ。
「危ないねー。当たったらどうするのさ」
 なのに、先に片付けなければならない問題が解決しなくて。
 弾丸は標的を少年ではなく天井へと変えていたのだ。
「当てるつもりで撃ったんだよ!このっ…」
 リミッターをオンにしているにも関わらずどうして当たらなかった? 
「超能力不活性化の力は、確かに僕の力も無効化する。でも距離を離せば何てことないし、通常の戦闘だったら体を使うまでだよ」
「っ、…!ああ、そうかい!」
「おや」
 ならばと背を向けて走り出す。
 未だ逃げ隠れしている最中なのに餓鬼に構っていられるか!
「逃げるのかい」
「うっせえ!ついて来るな!」
 建物内を走り抜けていく自分の後ろから声が追いかけてくる。
 ちらりと見遣れば能力で体を浮かせて、呑気に少年がついて来ているのだ。
「僕は君に用があって来たんだぜ」
「俺はお前に用事なんてねえ!死なねえなら消えろ!」
「無茶言うなよ。ほうら、追いかけてきたぞ」
 言われて背後に目を向けると、銃を構えた連中が視界に入った。
「くそっ」
 銃弾が飛び交う中、階段を駆け下りて、隠していたバイクに乗り込む。
 追手の足音が近付いてくるのが聞こえ、すぐさまエンジンをかけた。



*****



「…お疲れ様」
 賑やかな街中の一角に聳え立つ高層ビルの屋上に身を潜めていたところ、頭上から落ちてきた声に嫌な予感がした。
 見上げれば不敵な笑みを浮かべた少年が、缶珈琲を片手に傍にいて。
「お、お前っ…まだついて来てたのか!?」
「僕の能力を舐めちゃ困るね。君が逃げ果せるまでずっと見てたよ」
 ぞわぞわと背筋が凍りつく気がした。
「変態!ストーカー!犯罪者!」
「犯罪者は君もだろう」
 それはそうだけど、と口を尖らせる。
 世界各国の要人を殺害した罪で、自分は国際指名手配されている。エスパーを含めた人間を道具や実験動物としか見ていない糞野郎なのに、だ。
「君も?って、お前、マジモンの犯罪者か?」
「名前は兵部京介。P.A.N.D.R.Aのリーダーだ」
 誰もが知っているその名に、大声を出さずにはいられなかった。
「パッ…パンドラ!?あのパンドラ!?は?お前みたいな餓鬼が!?」
「言ってくれるね。それに僕は餓鬼じゃない」
 いやどう見ても餓鬼だろう、と反論すると、戦前生まれだと答えられた。
 そんな馬鹿な。いや、生体コントロールを使えば可能なのか?
 エスパーの能力は多種多様だ、そんなことができるかもしれない。
「それで何だって俺に?用件は何だよ」
「いやちょっと勧誘をしに、ね」
 すらりと優雅な動きで彼は手を差し出した。
「僕の仲間にならないかい」
「はあ?」

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