櫂は世界で一番残酷な魔王だそうだ。
何だよそりゃあ、と突拍子もないアイチの言葉に腹を抱えて笑った。似合っているなとは思う。小さい頃は無邪気で明るい笑顔を浮かべていたが、成長した今は見る者を震え上がらせる凶悪な笑みばかり。本人は意識していないから余計に質が悪いだろう。しかしながら、世界で一番残酷とはよく言ったものだ。知らぬ者から聞いた噂を森川がアイチに話したそうだが、その人物は櫂の本質を見抜いていない。確かに、櫂は残酷だ。ヴァンガードにおいて、人間性において、意図せずに強者が集まってしまう。そうして誰もが櫂を狙い執着する。運命としか言えないけれど残酷な人間だ。相手から言わせれば、だけど。


「ま、世界で一番ってのはねぇよな」
「そうですよね…、櫂くん、残酷じゃないですし」


所詮は噂だから気にするなよ、とアイチに言って、帰り道で別れる。今日はカードキャピタルに寄らない。アイツと会う約束があるから。それにしても、と考えた。櫂が世界で一番残酷ならば、俺は一体どれほど残酷なのだろう。櫂は知らない。自分自身が誰をも惹き付けてしまう魅力的な存在だということを。
本来ならば俺が仲介役となって仲間を増やすべきなのにそうはしなかった。理由は簡単だ。以前、櫂にはたくさんの仲間がいた。裏表のない性格を持っていたから、みんなが櫂と仲良くなった。もちろん俺もその一人。けれどそれは、大多数の内の一人だ。櫂にとってただの友達で、特別な存在ではない。悲しいことにヴァンガードが強いわけでも、妙な個性があるわけでもない。俺はその時、平凡であることに初めて不満を感じた。
やがて櫂は家庭の事情で街から去り、戻ってきた時には変わっていた。周囲からは冷たい男だと言われ、ファイターからは怯えた目を向けられていた。だけど俺にはすぐ分かった。櫂は何にも変わっていない。ただ、孤独という殻に籠って怯えているだけだと。過去は知らない。本当は話してほしいけど、時が来たら櫂は話してくれるだろう。俺は櫂の一番でいたい。櫂に仲間なんていらない、櫂は俺だけを頼って、俺だけを見ていればいい。先導アイチも雀ヶ森レンも。櫂の中から消え去ってほしいと心底願った。
なあアイチ、世界で一番残酷なのは、櫂じゃねぇんだ。


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タイトルは某魔女

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