※幸せで不幸せな話


Side,R
僕と彼は相思相愛だった。
心の深いトコロにある互いの秘密を分かち合い、誰に認められなくとも幸せで、灰色だった毎日が輝いて見えるほど楽しかった。こんな日々が永遠に続くのだと、そう思っていたんだ。きっかけはいつだったのか思い出せない。けれど確かに自分自身が原因だ。神様から与えられたと言ってもいいだろう力を僕は手に入れた。数々の名立たるファイターを倒し、あっという間に頂点に君臨するほどの力。彼の望む姿のはずだった。なのに、彼は僕の前から消えた。すぐに後を追って探したけど、子供が出来ることなど限られている。ならば見ていてくれるだろうと世間に名を知らしめた。君臨する王者の証を示して。そうしてようやく再会した。でも、彼は変わっていた。僕以外の人を連れて、僕以外の人と笑って、僕以外の人を愛おしそうに見ていた。力を手に入れて望んだ人間へと成長したのに。どうして、と疑問だけが残った。僕を置いていくの。僕だけを愛してくれないの。僕と君はずっとずっと愛し合っていたのに。


「…楽園に帰りましょう、櫂」


銀色に輝いた刃を振り下ろした。僕は君と永遠になりたい。振り向いてくれないなら、置いて行かれるなら、方法は一つしかないよね。一瞬で視界が真っ赤に染まった。目の前の光景がゆっくりと流れる。嬉しさと同時に悲しみがこみ上げたが、見ないふりをした。


Side,K
俺とアイツは相思相愛だった。
心の深いトコロにある互いの闇を知り合い、誰に認められなくとも幸せで、灰色だった毎日が輝いて見えるほど楽しかった。こんな日々が永遠に続けばいいと、そう思っていたんだ。きっかけがいつだったのか思い出せる。けれど確かに自分自身が原因だ。神様とやらがいるのなら、どうして余計な手出しをしたのだと憎みたい。努力して得たものではなく、何かに与えられた力など必要としていなかったんだ。勝てなくてもいい。負けてもいい。今が楽しければ良かった。世間に名を知られずとも構わなかった。王者という器など示す必要はない。俺は恐怖した。力を得て変わり果てた想い人に。だから逃げたんだ。弱くて耐えられなくて。自分だけが世界に置いていかれた気がした。ただただ恐怖だけに取り憑かれて、救いと居場所を求めた。心が満たされるのは偽りだと理解しても、もう一度向き合うことが怖くて。でも、俺が弱いから。弱いせいで、次に見た時には壊れてしまっていた。


「…ああ、一緒に帰ろう、レン」


振り下ろされた刃を抵抗せず身に受ける。痛みは感じなかった。これは当然の報いなのだ。今までの行いに裁きが下される時が来ただけ。そしてだからこそ、お前に俺の命を奪わせるわけにはいかなかった。俺の命が尽きることは構わない。けれどお前には生きていてほしい。きっと自分を責めるだろう、死を望むかもしれない。勝手な言い分だ。俺の弱さでまたお前を傷付けている。分かっているんだ。でもどうしようもなくて、最善がいつも分からなくて。誰かの叫び声が聞こえた。足に力を入れて宙へと投げ出した身体は重力に従い落ちていく。不思議と死が目前に迫るのに幸せな気持ちだった。永遠の存在になれることが幸福なのだと初めて知った。


Side,A
真っ赤に染まった二人を僕は呆然と眺めることしか出来なかった。崩れ落ちた身体が宙へと投げ出されて落ちそうになるのを止めたのは三和くんだ。必死に親友の名前を呼ぶ姿を初めて見た。カムイくんとミサキさんは救急車の手配と、周囲へ応急手当の道具はないか聞き回っていた。僕はただただその光景を眺めることしか出来なかった。


「おはよう、櫂くん」


ベッドサイドテーブルに置かれた花瓶の花を交換する。今日は黄色のマーガレットだ。次に新しい花を持ってくるまでに、櫂くんと話せればいいなと思う。
あの日から櫂くんはずっと目を覚まさない。医者も原因が分からないそうだ。数日後か数年後か数十年後か、一生眠ったままもあり得ると言われた。だけど僕は思う。櫂くんはきっとあの人が目覚めるまで起きない。雀ヶ森レンさんは精神的ショックにより、櫂くんと同じ日から眠り続けている。血塗れの姿を見て気を失って、それ以降ずっとずっと、まるで同調しているかのように。


「……ねぇ櫂くん、僕、レンさんが羨ましい」


夢の世界でも、現実の世界でも、彼と一緒にいることができるのだから。二人にはどちらも楽園に変わりない。どちらにいても互いの存在は永遠で、愛すべき存在なのだ。


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分かる人には分かるあの曲を聞いて衝動的に書いたもの

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