可愛い、可愛い、真里亞の戦人。
誰にも渡してあげない。
絶対、絶対にね。


「うー」


赤と黒の色調で装飾された長椅子に腰かけ、少女は楽しげに鼻歌を歌う。曲名はない。大好きな魔女が、口ずさんでいたのを聞いて、真似しただけだから。けれどこの薔薇庭園にはとても相応しい曲で。隣ですやすやと寝息を立てる彼には、ちょうどいい子守唄になるだろう。世界には、アダムとイブのように、二人だけしかいない。少女が願ったから。鳥籠になっても、一緒にいたいと。痛みを知るもの同士、ずっと永遠にいたいと。


「真里亞」
「うー、戦人、起きたの?」
「まだ眠いけどな…、嫌な夢、見た気がして」


頼りない笑顔を浮かべる戦人を、真里亞はぎゅっと抱きしめた。子供を諭すように、ゆっくり頭を撫でて。そして唇を落とす。壊れぬよう、優しく。寂しがらぬよう、甘く。まだ幼さが残っている少女の、何処にこんな力があるのか。そう思うほど、抱きしめられた身体は動かず、口内へと入り込んだ舌は、徐々に男を快楽へと誘う。吐息が漏れ、唾液が滴り落ちる。ようやく顔が離れたとき、彼は恍惚とした表情を浮かべていた。


「さぁさ、忘れてしまいなさい」
「…な、にを?」
「全部だよ」


小さな手がそっと両目を覆い隠す。男は知らない。けれど少女と一緒なら、良いと思った。その感情も全て、仕組まれたこととも知らず。紡がれた言葉が、ゆっくり暗闇へと引き摺る。あと少し、あと少しだと、誰かが言った。

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