静寂に包まれた空間、向かい合う男女は言葉を交わさず、ただただ光景を眺めていた。もう何度繰り返しただろう。否応なく悪夢に引き摺られ、どのくらいの月日が経ったのか。時間というものがない世界にそれを知る術はない。最初は耐えられぬ程の絶望を味わい、飛び散っていく血に目を逸らしたものだが、これも慣れてしまった。あるはずがない、と心に誓っていたのに。己やその親族が無惨に死んでいく様を見ても、何も感じない。感情はあるのに。見慣れた光景だからか。もう心の奥が、麻痺してしまったのだろう。


「どうした、戦人」
「………いや」


陰鬱な表情を浮かべている彼に気付いたのか、魔女はティーカップを置いてそう尋ねた。いつもは餓鬼みたいに馬鹿にするくせに。変なところで気を遣う奴だ。


「ロノウェ」
「はい」
「菓子とかねェかな」
「それならばダックワーズがございます」


音もなくテーブルに皿が置かれる。それをそっとつまみ、口に運んだ。うまい。味を尋ねられてそう答えた。聞くことには、これはワルギリアが暇潰しに作ったらしい。流石というべきか。鯖が混ぜられていないことに安堵するべきか。


「菓子が来たならば休憩しよう」
「わーいっ、休憩!」


何処でベアトリーチェの言葉を聞いたのか、七姉妹もふわりと空間に現れる。外はいまだに雨だ。だが不思議と先程までの気持ちはなくなっていた。

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