全世界に流された映像に人々が食いついている中、男はマリンフォードへと進む船の甲板で、一人風を感じていた。ひしひしと伝わってくる緊張感。海賊と海軍がぶつかり合って生み出されたそれは、はるか遠くにいる者にも影響を与えていたのだ。


「……ルフィ」


赤い髪を靡かせて男は一人の少年に思いを馳せる。最初はただ酒場で知り合った餓鬼だという認識しかなかった。なのにいつの間にか世界を照らす太陽のような存在になっていて。手離したくない大切な存在になっていたのだ。
――いつかきっと返しに来い、立派な海賊になってな。
必ず追いついてやると決意した子供に麦藁帽子を預けて旅立った。彼ならば来る。屈強な仲間を連れて、濁りのない瞳を持って、俺の前に現れるのだろう。


「ルフィ、死ぬなよ」


状況だけが船員の口から語られ、耳に入る。そして身体中が騒ぎ出すのだ。今すぐにでも助けてやりたい。この腕で抱き締めてやりたい。心が壊れた彼を連れて行ってしまいたい、と。己の中に渦巻いている欲の大きさに、思わず笑ってしまった。
そうであれば、どれほど良いことか。

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