「ごめんな、ルフィ」


そっと頭を撫でる手は昔と変わらず温かく、語り掛ける声も優しい。じゃあ、変わったのは何だ。自分自身か、世界か。答えは見つからないまま、何処かへ進む船の中の、何処かの部屋のベッドで横になっていた。
もう、動くことが出来ない。足に嵌められている海楼石で出来た枷のせいでもあるが、夢も希望も失われたことが一番の原因だった。あんなにも綺麗だった海は、ちっぽけな自分を飲み込もうと大きく口を開けて、今か今かと待っている。いっそ死ねば楽になれるのだろう。簡単なことだ。海に飛び込んでしまえばいい。それだけで悪魔の加護を受けた者は死ぬことが出来る。けれど、いつも誰かが傍にいて、いつも誰かが見張っている。とっても大好きで、憧れだった、あの人の命で。


「食事を持ってきたぞ、ほら、食べないと元気出ねぇって」
「…………」
「ルフィ」
「っ!」


傍にあった時計を力の限り投げつけた。当たらないと分かっていても、このやるせない気持ちを何かにぶつけずにはいられなかった。


「出ていけ!お前の顔なんて見たくねぇ!」
「……何度も謝っただろ?いい加減に許してくれ、ルフィ」
「謝るくらいだったら、みんなをっ…、俺の仲間を返せ!返せよ!」


この男は自分から全てを奪ったのだ。今まで一緒に旅をしてきた仲間も、船も、そして自身の自由すらも。怒り狂わずにいられるわけがない。だって、そうだろう。
どうして、どうしてだ、


「どうして殺したんだよ…シャンクス…」


視界を塞がれて真っ暗な世界が訪れる。何度も尋ねた問いに返ってくるのは同じ答え。


「お前を愛しているんだ、だから誰にも渡したくない、誰にも触れられたくない、見られたくない」
「…ずりぃよ…、シャンクスはずるい」
「ああ、俺はずるい奴だ」


ごめんという言葉と共に、何かが崩れていく音が聞こえた。

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