手を伸ばした先に、何も掴めないと理解したとき。
絶望という言葉だけが心を覆った。


「!」


息が詰まりそうな感覚を覚え、すぐさま起き上がり深呼吸をする。何処だと辺りを見回せば、すぐそばで寝息を立てている仲間の姿があった。安堵の溜め息を漏らし、ただその顔を見つめる。またあの悪夢を見るだなんて、どうかしている。こうして日常が戻ってきたのに。心を抉るような映像は、まだ脳裏から離れない。零れ落ちる涙と、己の無力さを実感した時。初めて闇が出来た。誰も救えない、誰もいない。そんな絶望感と孤独感。それが時たま、悪夢という形で現れる。自然と体が震えて、奈落の底へ落ちそうになるのだ。
麦わら海賊団の船長という責任が重く圧し掛かる。船員を守らなければならないのに。シャンクスとの約束を果たさなければならないのに。これでは立派な海賊とは程遠い。命懸けで守らなければ。誰一人、死なせない。絶対に。瞼をゆっくりと落とし、神経を研ぎ澄ませる。拳を握り締めて、覚悟を決めるのだ。必ず、守ると。
誰も起こさぬように足音を立てず、そっと彼は部屋を出て行った。


「…おいクソコック」
「何だよクソマリモ」


目を閉じたままゾロとサンジは互いに言葉を交わす。


「随分とおっかねぇ顔をしてたな、うちの船長は」
「うなされてると思ったら、突然起きるしな」
「ありゃ一人で抱え込もうとしてる面だぜ」
「本当に馬鹿だなあの野郎は」


何故そんな顔をするのか、なんてことを聞くつもりはない。理由など当に知っていたからだ。ようやく全員が再会出来たとき、船長は以前よりも大人びていた。懸賞金額が跳ね上がっていた訳を聞かされ、ナミに半殺しにされていたことは、今でも忘れない。そして一人で死に掛けていたことも、そのために寿命を減らしたことも。まあ大体は革命軍のイワンコフから聞かされたが(まったく無関係な話ばかりで、ルフィが本題に入らなかったため)。モリアとの闘いでウソップが言っていた。もっと強くならねば、と。ルフィ一人で抱え込まぬように、これ以上背負わぬように。けれど強大な力を持つ輩はまだまだいる。彼にだって敵わぬ奴がいる。それを一人で倒そうとするのだ、アイツは。だから馬鹿だと言われるのだ。


「あとでぶん殴ってやるか」
「そうだな」


遠くで聞こえる派手な音を聞きながら、彼等はまた眠りへと落ちた。


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シャボンディ諸島のトラウマを思い出す船長と、心配する双璧を書きたかっただけ

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