迂闊と言えば、迂闊だった。
船でいろいろな島を行き来する海賊にとって、食料はなくてはならないものだ。海という食料保存庫があるものの、流石に魚料理が続けば飽きる。それに広大な海でまともに食べれる魚と出会うのは運任せ。だから島に着いたら食料調達をするのは常だった。今回もそう。ジャンケンをして負けた奴が行く。もちろん荷物も一人持ち。まあ女性の場合は必然的にサンジという便利屋がついて来るが。そして負けたのは、船長と航海士だった。とりあえず四次元胃袋の彼がお金を持てば、食料を買う前に金が尽きてしまうだろう。それを危惧した彼女は、当たり前のようについて行った。
そして今日も平和に過ごす筈、だったのだ。


「ルフィとナミ、気付いてくれるかな…」
「船がもぬけの殻だったらルフィはともかくナミは気付くだろ」
「だって俺達でさえ此処が何処なのか分からないんだぜ?」
「あの船長は野生動物並に勘が働く、何とかなるだろ」
「それより彼等はどんな目的があるのかしら」
「人質を取ってルフィを脅したりするんじゃねぇの」
「その前にあいつが全員ぶっ飛ばすだろ」
「同感だ」


まるで緊張感のない会話は船内でのそれと変わらないものだった。ただ異なる点があるとすれば、全員が敵に捕らえられているというだけ。対能力者用に海楼石を埋めてある、頑丈な錠だ。ちょっとやそっとじゃビクともしない。あの後。ルフィとナミが食料調達へ行った後。船内では個々がいつもと同じ、好きに活動していた。だが突然、何者かの襲撃があったのだ。海軍もいない平和な町と聞いて、気が緩んでいたかもしれない。催眠ガス入りの爆弾が放り込まれ、いとも簡単に捕虜となってしまった。


「随分と呑気だね」
「……テメェか、大将は」
「どうも初めまして麦わら海賊団の諸君、私はディート、懸賞金は1億5000万ベリー」


飄々とした態度で現れた男は、真っ黒なスーツに身を包み、口元をにたりと歪ませた。サングラスの奥から覗かせる瞳は、ぎらぎらと光を放っている。例えるのなら、獲物に食らいつく猛獣のような。薄暗い倉庫いた彼等にとって、開いた扉から溢れる光は眩しく。目を細めるとようやくディートという男の背後に、大勢の部下がいたことに気付いた。ざっと500はいるだろうか。景色から判断するに、恐らく島の山頂付近。此処にはそんな目立つ建物も、人間もいなかったように感じたが。まさかひっそりと潜伏して、機会を窺っていたとは。


「それで?俺達を海軍にでも売ろうってか?」
「お前達はただの餌…、麦わらを呼び出すためのね」


愉快そうに喉を鳴らし、ディートはゾロ達を見遣る。シャボンディ諸島での天竜人の件、大監獄インペルダウンへの侵入と脱獄、義兄エースの処刑阻止。彼の父親がそうであるように、ルフィも海軍や世界政府が血眼となって探している存在だ。


「……莫大な懸賞金のみならず名声も手に入る、確かにいい考えだな」
「おやおや君も分かっているねぇ、その通りだよ」
「だが言っておくぜ」
「何だ?」


迷いのない瞳をぎらりと輝かせ、ゾロは不敵に笑う。


「テメェみてぇな雑魚に船長は捕まらねぇよ」


それは誰もが確信していることだった。敵がどんな奴であろうと、船長は負けない。負けさせない。負ける筈がない。何があろうとも、あいつは進むことを止めないのだ。だからこそ共に歩むことを誓った。どこまでもまっすぐ、自分の信念を決して曲げない。海賊らしくない海賊なのだ。と、電々虫から通信があった。


『ディート様』
「どうした、何事だ」
『麦わらが来ましたが如何しますか?』
「此処まで連れて来い、仲間を殺されたくないならな」
『了解しました、それでは…っ、うわぁ!?』
「!? おいどうした!」


突如として通信が途絶え、外から派手な音が聞こえた。まともに来れねぇのか、とサンジが笑えば、いつものことだ、とみんなが笑う。道にでも迷ったのだろう。随分と遅いご到着だ。それとも食べ物に気をとられ、買い物が長くなってしまったのか。どちらにせよ、目の前にいるディートに勝ち目はなかった。いや、勝ち目なんて元々なかったが。


「大変ですディート様!麦わらがこちらに来、」
「どっ、どうしたんだ一体!?」


それは異様な光景だった。ルフィが一歩踏み出していく毎に、ばたばたと敵が倒れ、また一歩踏み出すと倒れる。空気がざわめいて、何ともいえぬ力が身体を襲った。仲間である彼等でさえ、気をしっかり保たないと意識が飛びそうな程に。まあウソップは既に気絶しているようだが。


「……お前か、俺の仲間を殺すとか言った奴は」
「…な、なん…だ、何だ、貴様ぁ!」


懐から取り出した拳銃でディートはルフィを狙う。だが相手はゴム人間だ。気が動転しているのか、そんなことも忘れているらしい。


「銃弾は効かねぇよ」
「がはぁっ、ぁ!」


顔面にルフィの拳が直撃して、倉庫の扉を突き破り、外へと吹っ飛ぶ。立ち上がらないことを確認し、すぐさま仲間の元へと走った。


「大丈夫かみんな、怪我はなかったか!?」
「ウソップが失神したこと以外は何もねぇよ」
「そっかぁ…、あー、良かった」


ルフィは安堵の溜め息を漏らし、ぺたんとその場に蹲る。能力者は錠に触れないので、刀をゾロへと渡し、足を駆使してなんとか壊した。話によるとナミは船番をして、みんなの帰りを待っているらしい。一人では危険だ、と目を輝かせ、サンジは錠を壊すなり、走り去っていった。


「こいつ等はどうする?」
「面倒だし海にでも捨てておくか」
「腹空いたからよー、面倒だし宝物だけ貰ってさっさと帰ろうぜー」
「食べ物しか頭にないのかテメェは」


ごつんと船長の頭をみんなで殴り、その場をあとにした。


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覇気を使いこなす(赤髪さん的な)船長を見たいが為に書いたけどgdgdに…

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