50万打フリリク企画 | ナノ


▼ 07

内心で叫び、俺はだらだらと汗をかいた。

城崎って、俺の働いていた会社の…!!

「あ、あの…あの城崎、で、いいんだよな?」
「吉海さんがどの城崎を想像してるかわからないけど…多分、その城崎で合ってる」

え、じゃあ俺、社長(もう解雇された会社だけど)の息子に手を出したってこと?

「全部俺のせいなんだ」
「俺のせいって…」
「言わないでおこうと思ったけど、でも、やっぱり、騙すみたいなこと、したくなくて…っ」

ソファの上で縮こまり涙をぽろぽろ零す葵の姿は、なんだかとても小さく見える。ついさっきまで艶やかな笑みを浮かべて「セックスしよう」なんて誘ってきた人物とは到底思えない。

――葵はそれから、少しずつ昔の話をしてくれた。

小学生の頃、親に連れられてたまたま会社を訪れたとき、社内で迷子になったこと。

心細くて泣きそうだった葵を見つけたのが俺で、一緒に社長を探すのを手伝ってくれたこと。その間気が紛れるようにか面白い話をたくさんしてくれたこと。手を繋いでくれたこと。

「吉海さん、なんか俺のこと女の子だと勘違いしてたみたいだったけど」
「…」

確かに彼のこの容姿なら、子どものときはさぞかし可愛かったことだろう。女の子と間違えても仕方がない。

「すごく優しくしてくれて、本当に嬉しかったんだ」

それからずっと、俺のことが忘れられなかったこと。

どうしても会いたくなって思い切って社長に俺のことを話してみたところ、自慢の息子が男を好きなんてとショックを受けた(当然だ)社長は、勢い余って俺をクビにしたこと。

「ごめんなさい。俺が父さんに変なこと言ったから、だから吉海さんはクビに…」

次々と畳みかけられる衝撃の事実を頭の中で整理している俺に、葵は何度もごめんなさいと頭を下げた。

「いや、俺こそごめん…全く覚えてない」
「ううん…仕方ないよ。だって俺、あのとき身長こんくらいしかなかったもん」
「小学生だもんなぁ…子どもの成長は早ぇぇ…」

えぇと、彼が小学生ってことは4、5…いや6年前…?俺がまだ働き始めて数年ってくらいの頃の話か。記憶力は悪くないと思っていたのだが、全くと言っていいほど思い出せない。そんなことあったっけ、という感じだ。

「…怒らないの?」

泣きはらした顔でおずおずとこちらを窺ってくる葵。先程までの妖艶さはどこへやら、その様子は叱られた後の子どものようだった。

「怒る?」

首を傾げて尋ね返すと、葵は「だって」と言った。

「だって、俺が好きになったせいで、吉海さんは…」
「あー…まぁ、仕方ないだろ。社長…君のお父さんの気持ち考えると当然だ。それに多分、クビになったのはそれだけじゃないと思うし」
「それだけじゃないって?」
「かなり大きなミスしたんだよ。取り返しのつかないような。俺のミス一つで、大事な取引を台無しにした」
「…そうなんだ」
「だから心配しなくてもいい。葵のせいじゃない。仕事なんて探せばいくらでもある」

ただ俺が、探そうとしていなかっただけだ。

現実から目を逸らして、いつまで経っても向き合おうともしないで。このままじゃいけないことはとっくの昔にわかっていたはずなのに。

「大丈夫。新しい仕事見つけて、また頑張るよ」

ほんの数時間前までやさぐれていた気持ちがいつの間にか前へと向いていることに気がついて、俺はふっと笑う。

――これ、多分、この子のおかげなんだよなぁ。

「…嬉しかった」
「え?」
「君が俺のことを好きだと言ってくれたこと」

そっと葵の頭を撫でた。

「勿論これ以上ないくらいに驚いたし、内心では怖気づいてたけど。こんな子どもとセックスするなんてありえない、って」
「…後悔してる?」
「してないよ。そっちこそどうなんだ」
「俺は、後悔なんか…」
「初めてだったんだろ?」
「!」

まさか気づかれているとは思っていなかったのか、彼の瞳が真ん丸に見開かれる。

「慣れてるふりして、遊びのつもりで…そんなに俺に抱いてほしかったんだな」

少し意地悪をするつもりで質問してみると、葵はぶわわっと頬を赤くした。

「い、いつから、気がついて…」
「俺がかわいいって言ったとき、顔真っ赤にして狼狽えてたから。あと挿入のときも苦しそうだったし、慣れてるなんて嘘だろうって」
「く、苦しかったけど…ちゃんと、最後の方は気持ち良かった、から…」
「ぶはっ」
「!?」

訂正するのはそこなのか。

「負けだよ。本当に」
「…負け?」
「いたいけな少年の初めてを奪ってしまったからには、責任をとらなきゃいかんだろ」
「それって」

――あぁ、そうだよ。

「無職三十路のおじさんで良ければ、どうぞもらってやって」
「!!」
「ぐっ…」

どす、と勢いよく胸に飛び込まれ俺は呻き声を上げた。

「吉海さん、大好き」

綺麗な顔した少年にこんなにもいじらしく思われ、心を動かされない大人がいるだろうか。少なくとも俺には無理だ。

腕の中にその身体を収め、ぽんぽんと軽く背中を撫でる。

「あーその、社長には追々認めてもらえるようにいろいろ頑張るから。とりあえずは再就職を目標に」
「…給料なら俺があげるのに?」
「あれ本気だったのか」
「うん」
「いいよ。いらない。恋人とセックスするのに給料だなんて必要ないだろ」

こいびと、と葵が呟いた。

「そう。恋人」
「恋人」
「あぁ。俺と葵は、今日から恋人同士」
「やった!」

――これが、俺に一回り以上も年の離れた恋人ができた日の全てである。

何でもかんでも安易に決めすぎだとか、そもそも年が離れすぎだこのロリコンだとか、批判はいろいろと尽きないだろう。

だけどまぁ、随分と時が経った今でも後悔はしていないままだし、俺のこの判断は間違っていなかったはずだ。

「吉海さん、いい加減に起きないと布団干せない!」
「んぁ、もうちょっと」
「駄目!起きて!休みだからってだらだらしないでおじさん!」
「お前…おじさんとか言うなよ…傷付く…」
「ふふ、おじさんでも好きだから安心して」

何より、この少年の――もう少年じゃないけど――笑った顔が見られるだけで「幸せ」ってやつを実感するのだから、それでいいんじゃないかと思う。

end?

prev / next

[ toptext ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -