▼ 01
「今日は律の奢りね」
「はい…」
翌朝。僕と凛は何故か大学の近くの喫茶店にモーニングを食べに来ている。昨日の今日で気まずさは当然拭えるはずもなく、僕はチラチラと凛の顔色をうかがった。
「なに?」
「あ、ごめん…凛、もう怒ってないのかなって…」
「怒ってるよ」
「怒ってるんだ…」
そりゃそうだよね。僕は最低なことをしてるんだもん。凛が怒るのも道理ってものだ。
「ブレンドコーヒー二つと、ホットサンドが二つ」
情けなくて肩を縮ませている間にも、凛はテキパキと注文を終えてしまう。僕の分までしっかり頼んでくれるところが凛らしい。
「律」
「は、はい」
「一晩時間を置いたわけだけど、ちゃんと頭の中は整理してきた?」
「…一応…」
まん丸な瞳が真っ直ぐにこちらを見据えている。それに合わせて僕も姿勢を正した。
一晩。あれから自分の部屋で考えた。
凛は亮一さんが好き。亮一さんは僕が好き。僕が亮一さんに惹かれてることは事実だけど、僕にとって凛は大事な妹で。
だから、引き返せるうちにもう諦めてしまおうと焦ってしまった。優柔不断で流されてばかりの僕よりは、凛の方が亮一さんを幸せにできると思ったんだ。
でも、彼の笑顔とか。僕の名前を呼ぶ声とか。そういうのを手放したくないと感じてる自分もいて。
例え妹でも、亮一さんが誰か別の人のところへ行ってしまうことを想像しただけで、すごくすごく怖かった。
「ごめん。偽善だった」
「うん」
「僕は、彼のことが好きなんだと思う」
「思う?」
「あ、いや…好きだ」
鋭い目で睨まれて慌てて言い直す。
「凛が亮一さんのことを好きっていうなら、僕もそれにちゃんと向き合う」
「うん」
「ライバル…って言ったら変な感じだけど…譲るとか譲らないとか、そういう考えはやめようって決めたんだ」
そうしたら、凛がぱっと花が咲いたみたいににこにこ笑った。
「ほーら、やっぱりね!」
「え…」
「私が瀬戸さんのこと好きだと思った?そんなわけないでしょ」
「え?え?」
「律があんまりにもうじうじしてたから、腹立ってきちゃって。ちょっといじわるしちゃった。ごめんね」
「…」
じゃ、じゃあ、凛は。
「でも、いい加減けじめつけなきゃいけないって思ったのは本当だよ。あやふやな関係のままなんて、絶対良くない」
「凛…」
「私は律のことも瀬戸さんのことも大切だから、ちゃんと分かって欲しかった」
うるうると泣きそうになる僕。瞳に溜まった水を、凛の指が優しく拭う。
「駄目なお兄ちゃん」
「りん…ごめん、ごめんね…僕、ちゃんとするから」
「うん」
「本当にありがとう」
「ううん。律が気づいてくれたなら、それで十分だよ…ね、瀬戸さん?」
えっ。
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