▼ 青春
「何度言ったら分かるわけ?制服はちゃんと着ろ。遅刻をするな」
「あぁ?うっせーよ」
僕と彼は、所謂犬猿の仲というやつである。
「生徒会長だか何だか知らねーけど、俺に指図すんな」
「生徒会長だから、だろ」
「ぶん殴られたいのか?」
「そうやってすぐ暴力に訴えかけようとする。だから馬鹿だって言うんだ」
「てめーちょっとこっち来い」
だらしなく着崩された制服、耳に並ぶ数個のピアスに、鋭い目つき。
自分で言うのもなんだけど、頭も良いし外見も人より恵まれている僕と、この男はいかにも正反対だ。
周りの生徒たちは勿論、先生だって僕の味方である。不良生徒を指導する生徒会長。なんとも正義感に満ち溢れたいい響きだろう。
――だから、僕と彼がこういうことをしてるっていうのは、誰も知らない。
「あ、あっ、あ…、はぁ、ばか、強い…って…」
「うる、さい」
腰を掴まれ後ろから激しく中を揺さぶられ、僕は目の前の壁に爪を立てる。声を押し殺そうにも彼のものが弱いところを的確に攻めてくるものだから、耐え切れずに女みたいな高音が漏れた。
「んぁ、あはッあ、んん…っ、ゆ、結城、も、だめ、いくっ」
「まだ駄目だ」
「ひあぁっ、むり、やめ…!」
肌蹴たシャツの隙間から潜り込んだ指先が、ツンと尖った乳首を抓る。痛みすら感じるほどの強い力なのに、僕の身体はそれを快感として拾い上げていった。
「俺より先にイくとか、ふざけんな」
「おまえが、あっ、やめれば、いい話だろ…う、く…ッ、ん、んっん、んぁ」
「なんでてめーの言うことなんか、聞かなきゃなんねーん、だよ」
「あぁぁぁ…ッ!」
ぱちゅん、と肌がぶつかり合う音がする。奥の奥までハメこまれ、足が震えて止まらない。力の抜けそうな腰を結城がガッチリと固定し、舌打ちをする。
「おい、力抜くな」
「だれの、せいだと…ッあ、ぁ」
ぬるりとした感触とともに性器を引き抜かれた。太いところが孔の縁を擦り上げ、たまらず息を吐く。爪の先がガリガリと壁の塗装を剥がしていった。
「待っ、それ、いやだ、ん、く…ぅッ、あ、はぁ、はぁっ」
「嘘吐いてんな」
「あぁ…ッん!!」
突然いきり立った性器を掴まれ、僕は背中を弓なりにして悲鳴を上げた。確かめるように先端をくるくるとなぞったかと思うと、結城は蔑むように笑う。
「濡れすぎ」
「ぬ…っ」
かぁ、と全身が熱くなった。なんでそんな恥ずかしいことが言えるんだ。こっちはいっぱいいっぱいだっていうのに、余裕があるのも気に入らない。
「はは、やべーよお前。首の後ろまで真っ赤なんだけど」
「…るさい!黙ってやれよ」
「んー?」
「い…っ」
無理矢理後ろを向かされ、噛みつくみたいに口付けられる。
「ん、ぐ…っん、ぅ、う、ンン!!」
「はぁ…やっぱ、いいな」
キスの合間に零れる囁き声。具体的に何がいいのかはよく分からなかったけれど、多分、恐らく、自惚れでなく、結城もこの行為を確かに気持ちいいと感じてくれているのだろう。だってそうじゃなきゃこんなキスするはずがない。
「ん、ん…っあ、あぁ!は…っ」
――馬鹿、にやけるな!
すぐ近くに見える結城の顔。少し乾燥した唇の感触と、汗で濡れた額。かっこいいなんて、思ってない。キスされることがたまらなく嬉しいなんて、思ってない。
思いたくない、のに。
「…はぁっ、あっ、あ、あっ、あ、もう、あぁいく、いくぅ…っ」
「わかったから、さっさとイけよ…っ!」
ラストスパートとばかりに強まるピストンに揺さぶられながら、僕はいろんな意味で泣きそうになっていた。
――どうして、よりによってこの男を!
*
「宝来くん、大丈夫だった?」
「あぁ、平気だよ。いつものことだからね」
「すごいよね、宝来くん…結城くんってあんなに怖いのに」
何事もなかったかのごとく教室に戻ると、数人の女子に話しかけられる。僕と彼がまさかセックスする仲だなんて思ってもいないであろう彼女たちは、いつもこうして結城を怖がり、僕の肩を持つ。
当たり前と言えば当たり前である。口も悪いし態度も悪いし、授業も真面目に出ない。奴は明らかに普通とは一線を画する「外れもの」だ。僕と結城、どっちが悪者でどっちが正しいかなんて目に見えている。
僕にとっては、違うけど。
結城は、規則や周りの視線に縛られている僕とは違う。いつだって自由で、自分のしたいように生きていて、僕はそれがとても羨ましい。じゃあお前もああなりたいのかと問われれば、応えはノーだが。
僕はあんな風にはなれない。分かっているからこそ、憧れるのをやめられないのだ。
「あー、会長いる?」
ガン、とけたたましい音を立てて教室のドアが開く。その先には結城が立っていて、僕の姿を見つけるなり一直線に近寄ってきた。周りにいた女子たちが慌てて遠くに離れていく。
「おい」
突然胸倉を掴まれた。ぐっと顔を近づけられ内心怯む。
「なに?」
「お前、やりやがったな」
「…?なんのこと?とりあえず離してくれない?」
「とぼけんじゃねぇ!」
一体何をそんなに怒っているんだ。先程行為が終わって別れたときは幾分か機嫌がよさそうに見えたし、そもそも彼を怒らせるような真似をした覚えは一切ない。
首を傾げて記憶を思い返していると、なんと突然結城はその場で制服のシャツを脱ぎ始めた。
「ちょ…っ、な、なにやってるんだよ!馬鹿!やめろこんなとこで!」
皆の前でなんてことを。必死で止めようとする僕をもろともせず、結城は露出させた肌を指差す。
「これ、会長だろ」
「!!!」
鎖骨から胸の辺りにうっすらと散らばる赤い痕。目を凝らしてみないとわからないくらいの小さな点。
――え?それ、僕のせい?
「は、はぁ?何を言ってるか意味が分からないな…僕には関係ない」
「あ?ふざけんな」
「知らないって言ってるだろ。自分のクラスに戻れよ」
動揺を隠そうと努めて冷たい声を出す。
嘘だろ。嘘だ。勢い余って所有印をつけてしまうとは。しかも無意識なんて余計に始末に負えない。
結城は僕のことなんか好きじゃないのに、欲なんか出すな。この気持ちを知られてしまったら終わりなんだ。馬鹿か僕は。何をやってる。
「お前しかいないだろうが。さっきまで無かったんだぞ」
周りの生徒たちから、好奇と恐怖の入り混じったような目線が注がれているのに気がついた。駄目だ。ここじゃ落ち着いて話ができない。
「ちょっと、来い」
結城の腕を掴み、速足で教室を出る。人気のない空き教室の一つに入り、誰もいないのをいいことに大きな声を上げた。
「お前、馬鹿だろ!」
「は?」
「皆の前であんなこと…話すにしても場を選べよ!」
「悪いのはそっちのくせに、なんで俺が怒られなきゃなんねーんだ。お前がキスマークなんかつけるからだろ」
「う…っ」
それに関しては、確かに僕が悪い。でも自分でもどうしようもないというか、誰かさんのせいで訳が分からなくなってるときにしたことなんだから、大目に見てというか…都合が良すぎるかもしれないけど。
「っておい!なに!?」
ぷちぷちと鮮やかな手つきで僕のシャツのボタンを外していく結城。まさかまたする気じゃあ…もうすぐHRが始まるっていうのに。
「俺にもつけさせろ」
「え?」
「やられっぱなしは俺のプライドが許さない」
そう言って、彼は僕の胸に吸い付いた。
「い…っ」
薄い皮膚を思い切り吸われ、痛みで顔が歪む。
「痛い、ばか、吸うな…っ」
「…ん。これだこれ。ほら見てみろ」
言われるがままに視線を下に向けると、濃い赤がひとつ、肌に刻まれていた。結城は満足げにそれを見て頷いている。
「これがキスマークだよ。お前、つけるの下手すぎ」
「つ、つけ方なんか知らないし…」
「覚えろ」
「はぁ?…っん!」
再び唇を胸に寄せられた。また痕をつけられるのかと思いきや、今度は肌ではなく胸の先端を口に含まれる。
「そこ、ちが…うだろ…っ」
痛みとは違う感覚が走り、ぴくりと肩を震わせた僕を見て結城は笑った。
「触ってほしそうにしてたから」
「してな…あっ、あ!痛っ」
ちゅ、ちゅう、と強く吸われる度、身体が勝手に跳ねる。息が荒くなっていくのが分かった。触れられることがたまらなく嬉しくて、ドキドキして、結城の髪をぐしゃりと握る。
「あ…っ、ん、ん、ぅ…ふぁ」
先端を舌で押し潰されたり、軽く歯を立てられたり。駄目だ駄目だと言いながらも結局は本気で拒むことなどできず、それどころかどんどんと気持ちが高まっていく。
「ほら、ここも吸えばちゃんと赤くなる」
散々いたぶられた僕の乳首は、真っ赤になってしまっていた。結城の唾液でべとべとに濡れたそこは、とても自分のものとは思えないくらい卑猥に見える。
「も…っ馬鹿だろ、ほんと…」
「でも好きだろ?」
結城がにやりと嫌な笑みを浮かべ、こちらを見上げた。
もういっぱいいっぱいな僕は、ドキドキしながら頷く。
「ん、好き…」
先程もあんなに交わったくせに、身体はもう貪欲に熱を訴えかけていた。この人の手で、口で、早く楽にして欲しい。
「…」
「…」
「…」
「…結城?」
暫しの間訪れた沈黙を疑問に感じて名前を呼ぶと、結城は自分の胸を押さえ眉を顰めた。
「…なんか、この辺が痛い」
「え?」
痛い…って、胸が?心臓が?
「…保健室行く?」
「いや…」
「具合悪いってことだろ?だったら行った方がいいんじゃ…」
「なんか、そういうのとは違うっつうか…」
ちら、と何かを確かめるような視線が向けられた。
「…なんだよ」
「ちょっと、もう一回言ってみろ」
「は?」
「今の。涙目で好きって」
「は?嫌だ。っていうか涙目じゃないし」
「言えっつってんだよ」
「嫌だ」
「言わねーなら犯す。今日一日授業に出させねぇ」
「駄目だ。僕は生徒会長だぞ。サボるなんてもってのほかだ」
「普通の生徒会長は、乳首吸われるの好きぃ、とか言わないだろ」
「う、うるさいっ!!」
誰のせいでこんな風になったと思ってるんだ!
ばしんと軽くその頭を叩くと、結城は怒りを滲ませた鋭い目つきで僕を睨んだ。正直かなり怖かったが負けじとこちらも睨み返す。
「キスマークつけるとかちょっとは可愛いとこあるじゃねーかって思ったけど…やっぱりお前、全然可愛くない」
「可愛くなくて結構。あー…もうどうすんだよHR始まってるじゃん…」
「別にいいだろHRくらい。お前どーせ教室戻ったら女といちゃいちゃするし」
「いちゃいちゃなんかしてない」
どういう見方をすればそうなるんだ。僕はお前みたいにだらしなくないし、皆に対して平等に誠実な態度で接している。
「どうだか。俺の前ではずっと仏頂面のくせに、他の奴らには笑顔振りまきやがって」
「…」
…ん?
「仕方ないだろ。僕は生徒会長なんだから」
「会長は愛想がよくないといけないってか。くっだらねぇ」
これは、もしかして。もしかしなくとも。
ふと頭の中を掠めた考えに、ドキドキと胸が高鳴る。
そんな風に怒るってことは、つまり。
「…お前、えぇと…あの」
「なんだよ。はっきり言え」
「それってさ、嫉妬…とか」
「…嫉妬?」
だったら嬉しいとか、少しは好かれてるって思っていいのかとか、僕の頭の中にはぐるぐるといろんな思いが渦巻いては消えた。結城は怪訝そうな顔をして首を傾げている。
「なにふざけたこと言ってんだ?気でも狂ったか?」
「…なんでもない。忘れて」
乱れたシャツのボタンを留めながら、僕は内心がっくりと項垂れた。そうだ。そんな都合のいいこと、あるわけがない。
「なんで俺が嫉妬なんかしなきゃいけねーんだよ」
「はいはい。そうだったね僕が悪うございました」
「俺は女なんかどうでもいい。お前がへらへらしてんのが気に食わないって言ってんの」
「あぁそう…ん?」
ぴたりと手を止めて彼の方を見る。ちょっと待って。
いやいや、そうじゃない。女の子と話している僕に妬いてるんじゃなくて、僕と話している女の子にヤキモチを妬いてるんじゃないかって言ってるんだよ。
「誰のために俺が毎日学校来てやってると思ってるんだ」
「え?」
「は?」
「…だ、誰のために来てんの?」
「そりゃお前だろ」
「えっ、じゃ、じゃあ、結城も、僕のこと」
期待で胸を高鳴らせる僕に、結城はここ最近で一番いい笑顔を見せこう言った。
「今までやった奴の中でお前が一番イイんだよな…なんつうか、こう、しっくりくるっていうか…搾り取られるって感じ?これぞ名器ってな!もう他の奴とする気になんてならねーって」
「…」
バチン、といい音が鳴る。僕が結城の頬を殴った音だ。
「いってえ!!何すんだ急に!!ぶっ殺すぞ!!」
「ぶっ殺したいのはこっちだよ!」
お前なんかもう学校に来るな!!
end.
*
名無しさんリクで、「俺様鈍感不良×ツンデレ生徒会長、高校生、R-18」でした。鈍感俺様ってどうやれば鈍感俺様なんだ…!?と試行錯誤しながら書かせていただきました。もしイメージと違ったら申し訳ありません…。
結城は明らかに宝来のことが好きなのに無自覚。だからこの後も結局まだ付き合ってない状態がしばらく続きそう。宝来の顔と体は好きだなーって思ってる。宝来は言わずもがな結城が大好き。
ケンカップルいいですよね。私も大好物です。またこの二人の話はどこかで書きたいな…。
素敵なリクエストをどうもありがとうございました!楽しんでいただけますように!