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▼ マニアB

「ちょ…、待ってって、馬鹿じゃないの、い…っ」

――きた。きたきたきた。

「待たない」

完治ははぁはぁと息を切らし、僕を強く壁に押し付ける。

「お前…っ、ちょっ…落ち着けって…」
「ごめん」

しゅるりと胸元のスカーフを片手で解く仕草があまりにも扇情的で、僕は耐え切れず目を逸ら…さなかった。むしろガン見した。こんなエロい完治の姿、見逃すわけにはいかない。

「でも無理、おさまんねぇ」

完治は、いつもこうだ。

学祭のときも、外部でやってる定期公演でもそう。大きな舞台の最終公演が終わった後はいろいろと気持ちが高ぶってしまうらしい。

劇が成功した喜びとか、演じてきた役に対する言葉では言い表せない感情とか、僕にはよくわからないが、とにかく抑えられない何かが溢れだしてしまうんだそうだ。それだけ彼が全身全霊で演劇に取り組んでいるということなのだろう。

そして。

「夏…」

――どうにも熱が治まらない完治の相手をするのは、僕の役目なのだ。

「ん、ん…っ」

普段じゃ考えられないような荒々しい口付けの仕方に、ぴくりと小さく身体が震えた。勿論恐怖からではない。喜び…いや、悦びでだ。何を言ってるんだ僕は。

「夏、夏」
「んぁ、あ…ッ」

掠れた声で名前を呼ばれ、耐えきれずに瞼をきつく閉じる。

「抱きたい、今すぐ」

はぁぁ…っ!!もう、もう、もう〜〜〜っ!!かっこいい!!いくらでも抱いて!!

「か、かんじ、待って…誰か来たら」

心の中ではそう叫びながらも、服を脱がそうとする完治の手を止め抗議する。形だけでも抵抗しておかないと、本当はしたくてたまらないことがバレてしまうかもしれない。

「来ねぇよ。皆わかってんだろ、俺とお前が何するかくらい」
「でも…っ」

完治がこうなってしまうのはいつものことなので、部の皆はもう何も言わない。むしろ公演が終わった後は気を遣って二人きりにしてくれるようになってしまった。申し訳ないやら恥ずかしいやら嬉しいやらで複雑な気持ちだ。

「ん、か…っ、んぁ、かん、んん…かんじ」

僕が名前を呼んでいるにも関わらず、それを無視して何度も口付けが降ってくる。唇の隙間から漏れる完治の息は熱くて、甘くて、条件反射のように瞳が蕩けてしまうのがわかった。

「…やる気になってくれた?」

唾液で濡れそぼった僕の唇を拭い、完治が笑う。

「バカ、変なこと、言うな…」
「エロい顔してる」
「してないっ」
「かわいい」

ぎゅっときつく抱きしめられ、どきどきしながらその肩口に顔を埋めた。汗の匂いが鼻いっぱいに広がる。多分汗くさいってことなんだろうけど、完治の汗なら全然気にならない。むしろいい匂いとすら思う自分は末期だ。わかってる。

「…汗くさいんだけど」
「ごめん」
「…」
「夏はいい匂い」

僕の髪に鼻を埋めた完治が、すうっと息を吸った。慌てて離れようとするががっちりとホールドされているせいで動けない。

「か、嗅ぐなよバカッ」
「んー?」
「バカ!!きもい!!へんたい!!」
「いーじゃん別に。いい匂いなんだし」
「良くない!!」
「いいから早く脱がして。汗くさいの嫌なんだろ」
「…どうやって脱がすの」

完治は今、豪華な装飾を施された衣装を着ている。これから先も使い回す予定だと聞いているから、下手に扱うと衣装係に怒られてしまうだろう。

「ここ、このボタンとって。中は普通のシャツだから」

指示通りに慎重な手つきでボタンを外している間も、完治は僕の髪に鼻を埋めたままだ。

「もー…鬱陶しいってば。離れて」
「やだ」
「っていうかこれ、僕が脱がすんじゃなくてお前が自分で脱げばいいんじゃ…」
「やだね」
「んむ…っ、ちょ、邪魔するな」

軽く食むようなキスを繰り返す完治から顔を背けると、無理矢理それを引き戻される。

「んぁ、ん、んぅ…っ」

こ、これじゃ先に進めない…っ!!

「や、もぉ…やめ、完治…やだ」

ちゅうちゅうと何度も首筋に吸い付かれ、僕はずるずるとその場にへたり込んだ。無理。腰が立たない。心臓ももたない。なんなのこの人。

「…夏、いつものちょうだい」
「!」

はぁ、と完治が耳元で息を漏らす。

「…えっ…と…」
「はやく」

いつもの――それは。

「きょ…今日の完治は」
「うん」
「今日完治はっていうか…今日の完治、も」
「うん」
「い、い、一番、かっこよくて」
「うん」
「特にあの…だ、第三幕の最後の台詞、感情こもってて、良かった…と思う」

――劇が終わった後、必ず僕は完治の演技について事細かに思ったことを伝えなければならない。

ひたすら。ただひたすら。完治はそれを聞いているだけ。

それが彼の言う「いつもの」である。

「うん。他は?」
「ほ、他?」

そんなこと言ったって完治の演技は全部かっこいいし全部すごいし全部好きなんですけど!!!僕の乏しい語彙力じゃこの愛を伝えきることなんて不可能なんですけど!!!まぁ仮にボキャブラリーが豊富でもどうせ意地張って言えないんですけどね!!!

「この間一緒に練習した台詞、聞いてなかったのかよ」
「練習した台詞…」
「貴方のことを心から愛してます、ってやつ」
「き、聞いた、けど」

僕が完治の台詞を聞き逃すはずがない。

ましてや「愛しています」だなんて貴重な言葉。もちろんICレコーダーで録音しましたとも。家に帰ったら編集してiPodにいれようと思ってますとも。

「聞いた、けど…」
「けど何」

あの台詞を言った瞬間の完治を思い出すだけで、心臓がドコドコと暴れ出す。もう何の感動かもわからない涙で前が見えなかったよね。完治がかっこよすぎて泣けてくるよね。

「あれ、お前に向けて言ったつもりなのに。なんか感想ないの」
「ば…っ」

馬鹿じゃないの、といつものように悪態をつこうとして、急に息が詰まる。あれ、と思ったときにはもう手遅れだった。

「…えっ」

完治が目を見開く。それもそのはず、僕の瞳からはぼろぼろと静かに涙が零れ落ちていた。

「な、夏生…?」

う…うっわ―――!!我ながら引くわ―――!!ドキドキしすぎて泣いちゃった―――!!

「大丈夫か、今なんか拭くもの…」
「ま…っ、待って」
「うおっ」

珍しく慌てた様子で離れようとする完治の服を掴んで引き寄せる。突然泣き出した挙句、強くしがみついてくる僕の様子に完治は戸惑っていたようだけど、しばらく経ってから優しく抱きしめ返してくれた。

「ごめん、無理矢理言わせようとして。嫌だったな。ごめんな」

違う、と首を振る。

「違うの?」
「が、がん、じぃ…っ」

こみ上げてくる涙がそれを邪魔でうまく話せない。

「ガンジーってもうそれ別の人じゃねぇか」

ぐずぐずな僕を見て小さく笑い、完治は宥めるようにリズム良く僕の背中を撫でた。

そして。

「…うそ。意地悪言った。本当はお前がちゃんと見てくれてたの知ってる」

そんな嬉しすぎる言葉を畳み掛けられ、僕は一層強く完治に抱きついた。

「ありがとな」

――あぁもう、なんか意地とか張ってる場合じゃないよ、こんなの。

「がんじ…」
「なに?」
「うれじい、うれじがっだ…」
「…そ?それは良かった」
「う、ぅ…っ」
「俺、ちゃんとかっこよかった?」
「うん、うん、うん…っ」

嬉しい。かっこいい。完治、大好き。完治が嬉しいなら、ずっと見てる。ずっとずっと傍にいる。完治の一番のファンは、僕だから。

「…」

だから。

「夏生?」
「…たい」
「ん?何?」
「え…え、えっち、したい…です…」

僕だって本当は、こうして劇が終わる度にこっそりと熱を抱え込んでいるのだ。舞台の上でキラキラしている完治を見て、ドキドキしないわけがない。そんな気持ちで誘いの言葉を呟く僕の顔は、見なくてもわかる。恐らくとんでもないほど赤いはずだ。

「えっちってお前…恥ずかしい言い方すんなよ」
「うるさいっ!!!僕が一番恥ずかしいわ!!!」

ひぇぇぇぇぇ…恥ずかしい死ぬぅぅぅぅ!自分から誘うのってこんなに恥ずかしいの…!?

「俺も…えっち、したい」
「う…か、からかうなバカ」

俯く僕の額に口付けて、完治は本当に嬉しそうな顔で笑った。



「ん…っ、んぅ、ふ…あ!あっ!」

にゅぷにゅぷと尖らせた舌で中を掻き回され、僕は壁にもたれたまま甘く息を吐いた。

「完治、もう…」

脚の間に埋められた完治の頭を掴む。少し硬い髪が指先に触れて、それにまたどきどきした。髪の毛にまでときめくなんて、僕は一体どれだけ完治のことを。

「…超エロい」
「やっ、あ、見るな…」

つ、と顔を上げた彼の口元が濡れているのが見え、羞恥で死にそうになる。咄嗟に顔を腕で隠した。恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

「夏、顔見せて」
「いやだ」
「…」
「んっ、ん―――ッ!!」

抗議するかのように指を挿入され、びくびくと足が宙を蹴る。丁寧な愛撫でじっくり解された内側は、完治の指を悦んできゅうきゅうと締め付けた。

「あぁっ、あっ、やっ、ひうっ、あ―――ッ」

ぐちゅ、ぐちゅ、と指を出し入れされる。

抜いて、入れて、また引き抜いて。

「はぁ…っ、あっ、はぁ、はぁ…!!」

だめ、気持いい。声が抑えられない。

「かんじ、っもういいから、抜いて」
「いいの?こんなにビクビクしてんのに?」
「ちがうぅ…っ、指じゃない、完治のがいい…」
「はは、かわいい」
「んんっ!!」

わざと僕の好きな箇所を擦りながら出て行く指に、僕は完治の顔をキッと睨み付けた。意地悪だ。

「おいで」

あぐらをかいた完治が、すっかり骨抜きにされてしまった僕の身体を抱き上げ脚の上に座らせる。完治は僕の顔を見ながらするのが好きだ。…僕も好きだけど。

「乗って、自分で入れて」
「ん…」

完治の肩に手を置いて、恐る恐る腰を落としていく。

「ん…っ…ぁ、あ…」

熱く硬い塊が、ゆっくりと入口を押し広げて中に入ってきた。肩口に額を擦りつけてぶるぶる震えていると、完治がうなじにキスをしてくれる。

「きつい?」
「きつく、ない…っ、へーき…」
「気持ちい?」
「き、きもち、ぃ…っ」

甘えた声で返事をする僕の耳元で、完治は大きく溜息を吐いた。

「お前ほんと…こういうときだけ素直になるのやめろよ」
「え…?」
「まじでやばいから」
「んぁっ、あ…、あ、なに…?」

緩く腰を回され、途端に思考が蕩けてしまう。いつの間に全部入ってしまったのか、奥まで完治のものでいっぱいだ。

「俺もう夏がいないとダメかもしれない」
「…だめ…?」
「そう」

どういう意味だろう、と彼の顔を見つめた。

「劇の終わったその瞬間に、絶対するって決めてることがあるんだけど」
「うん…?」

初めて聞く話にじっと意識を集中させる。いつも完治から目を逸らさないようにしているはずなのに、知らなかった。一生の不覚。

「あぁやばい楽しかったーって客席に礼してから、お前の方見るんだよ」
「えっ…?えっ?なんて?今なんて言った?」
「だから、劇が終わったその瞬間、夏の顔見るって決めてんの」
「…うううううそ、見てたの…!?」
「見てたよ」

全然気がつかなかったんですが…!?大丈夫!?変な顔してなかった!?あほみたいな顔してて、完治に幻滅されたりしてない!?

「そしたらさ、お前ずーっとキラキラした目で拍手して、にこにこ笑ってて、すげぇ可愛くて」
「っ、なに言って…」
「それが、俺の至上最高に幸せな瞬間」
「し…幸せ…?」
「そう。夏を笑顔にする演技ができたことがめちゃくちゃ嬉しくて、演劇やってて良かったって。また演りたい、また頑張れるって」

完治は僕の口に優しく口付ける。

「あぁ俺、こいつがいないとダメだなって、夏生のことすげー好きだなって、毎回思うよ」

ぶわ、と身体中が熱くなるのがわかった。

「…もう一回、言って?」

ぐしゃぐしゃに顔を歪め、泣きそうな僕を見て完治が笑った。

「好きだ」

――だめだ。また泣く。

「も、もぉいっかい…っ」
「好き」
「もっ、と、もっと…もっ…」
「大好き」

完治は泣くなよ、と苦笑して涙を拭ってくれる。これが泣かずにいられるか。

初めて完治の演技を見たとき、心が震えた。さっきまでありふれた普通の中学生だったやつが、一瞬にして王子になったんだ。その次は、悪い魔法使いになった。かと思えば一介の兵士になったり、ときには仕事に疲れたサラリーマンにもなった。

くるくると表情を変えて、身体をいっぱいに動かして、見る者全てを魅了する。次はどうなるんだろう、物語はどんな風に進むんだろう、と胸が弾む。

惹かれずにはいられなかった。彼が創るたくさんの世界を、一番近くで見られる存在になりたいと思った。

「完治…」

あのときからずっと、僕は完治に恋をしている。

「…完治、大好き」

大好きだよ。完治が大好き。だから僕は、ここにいるんだ。

「知ってる」

完治は僕を抱きしめて、動いていい?と言った。

「ん…いいよ」

ちゅっちゅっとついばむように口付けながら、繋がったままの縁をゆるく擦られる。

「…っあ、ぁ…ん、んん…」

じれったいようなもどかしい動き。僕はふわふわした気持ちで口を開いた。

「もっと、しないの…?」

こうやって求めてくるときはいつももっと荒っぽいというか、いや決して無理矢理されているわけでも痛めつけられているわけでもなくて、余裕のない完治は本当に色気たっぷりでかっこよくてそれはもう最高…じゃなくて、とにかく彼はもっと激しく僕を抱くのに。

「んー…」
「ん…っ、ん、どーか…した…?」
「何回もしといて今更だけど、夏は嫌じゃねぇの?」
「嫌って、なにが…」
「激しくするとお前ぜったい泣くじゃん。声我慢しようとするし、あー俺ひどいことしてんな、でも止まれないごめんって思ってたんだけど」
「き、気にしてたの」
「そりゃ気にするだろ。泣かせてんのは俺なんだから」

気にしなくていいのにぃぃぃ!!むしろもっとがつがつされたい!!完治にだったら何されても良いんだよ僕は!!

「…」

心の中で思い浮かべるその言葉を、普段は絶対に口にしたりはしない。けど、今日は。

今日はすごくすごく、嬉しかったから、伝えたいから、今なら言える気がする。

「…こんな状態のお前の相手できるのなんて、僕くらいなんだから…余計なこと考えないで、好きにすれば」

…と思ったのに!

あぁぁぁ僕のバカ!またかわいくない言い方を!!

「ふぅん…?じゃあ、遠慮なく」
「ちょ…っ、な、に…」

ぐるんとその場に押し倒された。驚く僕の太ももを掴んだ完治が、そのまま大きく脚を開かせる。

「え…っ!?」

ひぃぃぃぃ!!嘘でしょぉぉぉ!?

当然つながった部分が丸見えだ。というかいろいろあらぬところまで丸見えだ。内心で悲鳴をあげる。

「好きにしていいんだろ?」
「い、いいけど、この体勢はやだっ!!」
「ダメ。脚閉じんな」
「あはぁ…ッ」

ぱちゅ、と肌のぶつかる音がして、同時に鳥肌が立つほどの「気持ちいい」が全身に広がっていった。

「あー…っすげぇ、エロい」
「んはぁぁ…っ、あっ、あ、やだ、んぁ、あっ、は、離して、離せよばかぁ…っ!!やだやだ…!!」
「やじゃないだろ?」

あぁ…っ、見透かされてるぅ!そうです!いやじゃないです!

「んんぅ、ふ…ぁ、あっ、んんん〜〜〜〜!!」

強く腰を打ち付けられてビクビク震える僕に、酸欠になりそうなくらいの激しいキスが降ってくる。与えられる快感はあまりに強烈で、完治の髪をぐしゃぐゃに掻き乱して悶えることしかできなかった。

「んっ、んん、ぷはっ、はぁ、はぁ…」

苦しくなって荒く息を吐き出すと、完治はやっぱり笑いながらそんな僕の様子を見下ろす。

「夏…っ、夏…かわいい、見せて」
「はぁ、あ、はぁっ、あ、も…っ、言うなぁ…!」

首筋に噛みつかれた。

「…い…ったぁ…!!」

毎度のことではあるけれど、痛いものは痛い。どうにか痛みを発散させようとして、完治の背中に爪を立ててしまう。

「かわいい…めちゃくちゃ、っかわいい、全部見せて」
「うん、うんっ、うんん…ッ、ぁ、あっ、あっ、あぁ…!」
「ん…っ夏」
「ひぁう…っ!」

ずる、と突然中を抉っていたモノが抜けていった。太ももの裏側にぬるい液体をかけられ、ぼっと顔が熱くなる。

――か、かけられた…完治の、せ、せい…え…っ。

「はー…気持ちかった…もう一回いい?」
「…ッあぁ!!」
「…夏?」

顔を両手で覆ってぷるぷる震えていると、しばらくして完治が小さくふき出した。

「まさかかけられてイったの、お前」
「わぁぁぁぁ言うなぁぁぁ!!」
「どんなタイミングだよ。エロいにもほどがあるだろ」
「なんでそういうこと言うのもぉぉぉぉ!!」
「こらこらそんな尻丸出しでどっか行くな。ほらこっち来い」
「やだーーーっ!!」

逃げようとする脚を掴まれて、ずるずると引き戻される。羞恥で泣きそうな僕を見て、完治はまるで舞台にいるときのように…いや、それ以上に楽しそうな、とびきりの笑顔を浮かべた。

「お前、ほんと俺のこと好きすぎ」

――あぁそうだよ大好きだよ!!!


[ topmokuji ]



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