ss | ナノ


▼ 俺を見ろよ

顔は我ながらよく整っている(と思うし、そうでなければこんな仕事はしてない)。歌も踊りもそれなりに上手い方である。少々性格に難はあるが、猫を被ることくらいできるし、実際周りからの好感度はかなり高い。

俺は今をときめくアイドルで、テレビに雑誌に大忙しだ。当然女性関係も派手でよりどりみどりのはずだが、俺はたった一つだけ間違いを犯した。…間違いというか、不覚というか。

「なんで俺と葉山さんが同じ控え室なんですか」
「嫌なわけ?」
「嫌に決まってるでしょう!」

膨れっ面でぼそぼそと文句を垂れ流しているこの男は、同じ事務所の後輩だ。可愛い面と人懐っこいキャラクターで現在人気爆発中の深水。

今日はあるスペシャルドラマの撮影で、何の因果か俺と深水は共演することになったのである。

「別に良いだろ。他の人と同じになるよりマシだし」
「…俺は他の人との方が…」
「へぇ?」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。余裕の無さにまた苛立つ。こんなの俺じゃない。

深水は不穏な空気を感じ取ったのか、少しだけ肩をすくめた。恐る恐るこちらの表情を伺っているのが分かる。

「あの、いや…その…」
「何。イライラするからはっきりしてくんない?ウザい」
「…やっぱり嫌いです。今すぐ部屋を替えてもらいたいくらい葉山さんが嫌いです」

あー馬鹿。こいつ本当馬鹿。そんでこの馬鹿を可愛いと思ってる自分が一番馬鹿。

「俺のこと好きで好きでたまらないくせに」
「はぁ…!?な、何言ってんですか!?」
「さっきのシーン。俺がヒロインのこと抱きしめたとき、お前すごい嫉妬してますって顔でこっち睨んでた」
「にっ、睨んでない!」

深水は顔を真っ赤にして抗議してきた。分かりやすいにも程がある。そんなんだから俺みたいな奴につけ込まれるんだよ。アホが。

「深水」
「な、なんですか…ちょっと、近い…」

ぐい、とその細い腰を引き寄せた。椅子に座ったままの俺の足の間に、向かい合わせに立たせる。

ふと心臓のあたりに手のひらを押し当ててみると、深水の鼓動はまるで太鼓を打ち鳴らしているかのようだった。思わず笑いが溢れる。

「お前…ドキドキしすぎじゃない?」
「うっ、うるさいですよ!仕方ないじゃないですか!先輩にこんなことされたら緊張しますし!」
「緊張だけ?」

ふるり、と長い睫毛が瞼の上で震えるのが見えた。行き場をなくしたかの如く宙を彷徨っていた手が、俺の肩に置かれる。

「…葉山さん、ずるい」
「何が」
「俺が逆らえないって分かっててこんなことする」
「こんなことって?」
「あっ!」

置いたままの手で胸を軽く撫でれば、深水は悩ましげな吐息を唇から吐き出した。

「乳首、感じる?」
「やっ!ちが…!これは、びっくりしただけで…」
「素直に言えば可愛がってやるけど」

素直じゃないのは俺も同じだ。本当は深水が好きで好きで仕方が無いのに、それを隠して余裕なフリをする。女なんて選び放題なはずが、どうしてこんなガキに入れこんでしまったのか。

分かってはいるけれど、もう、どうしようもない。

「なぁ、深水…言えよ」
「へ…」
「俺のこと好きって。だからヤキモチ妬きましたって」

にこりとアイドルらしくキラキラした笑顔を浮かべる。自分で言うのもなんだが、深水はこの笑顔を向けられたら一発で落ちると思う。それくらい贅沢な笑みだ。

案の定、小さく呟く声がした。

「あの」
「うん。なに」
「…お、俺とあの女優さん、どっちが、す、好きですか…」
「…やっぱ妬いてんじゃん」
「だって!」

深水の瞳が淡く潤む。ひどく苦しそうな表情で、俺の肩をぎゅっと掴んだ。

「俺、ちゃんと葉山さんの気持ち、聞いてない…」

…あーもう、こいつ本当にムカつく。なんなの。

「深水」
「んん…ッ」

唇を甘く噛み、低い声で何度も名前を呼ぶ。その度に深水は喉の奥でくぐもった声を上げた。たまらない。

「深水」
「んっんっぅ、あ…ふ、んん」
「深水、俺を見ろよ」
「んぁ…っは、はやまさ…」

舌で口内をかき回しながら、その身体に手を這わせる。服の裾から侵入し直接肌を触ると、深水はビクリと全身を震わせた。

「や…こんな、とこで…っ」
「煽ったお前が悪い」
「あっ…ん、んんっ、ひうっ!」

休憩時間はあと一時間。手短にコトを済ませねばならない。性急な手付きで愛撫を進める。

「ふ…ッあ、あ、ん…んんっ」

服を捲りあげ、眼前に晒された白い胸に吸い付いた。ちゅっちゅっとキスを落としつつ、下半身に手を伸ばす。

硬く熱を持った昂りをズボン越しにさすってやると、一層大きな嬌声が上がった。

「んぁっあっ、葉山さ、うぁっ…やぁ、や、やだ…っ」
「何が嫌?」
「声、でる…っ、となり、人いるのに」
「聞こえないって」

にんまりと口元が緩む。深水はどうやら俺に触られることを拒否してはいないらしい。心配事は声が聞こえるか否かであり、こうして行為に及ぶことに対する嫌悪はない。

「な、なに笑ってんすか…っ」
「いや?深水は馬鹿だなって思って」
「馬鹿なのはあんたでしょうが!」
「そうかもね」

こんな恋、どうしたって俺には似合わない。だけどもう、愛しくて仕方ないんだ。



「んっんっんんっふ…は、ぁ…っあ、あ、ん」
「…やらしー顔」
「ひ…ッ、う、うるさい…ですっ、んぁっ!」
「皆のアイドル深水くんが、先輩とセックスしてよがってるって知られたら大変だろうな」

きゅう、と後ろの締め付けが増した。思わず口から甘い息が漏れる。

「はぁ…なに、想像して興奮したわけ?皆にこんなやらしい姿見られてるとこ」
「ちがっ、ぁっんん、や、あっあっ!!」
「淫乱」

軽く腰を揺すりながら耳元で囁くと、膝の上に跨っている深水の身体が大袈裟なくらいビクビク跳ねた。

「や、なに…っも、いく、いっちゃう」
「っ馬鹿、締めすぎだって…」
「わかんない、わかんないです…だって、これ変…ッ」

涙をボロボロと零しながら縋りついてくる。正直もう限界だ。何故この男はいちいち俺を挑発するような真似を。狙っているとしか思えない。

昔からそうだった。深水はいつだって純粋で。葉山さん葉山さんと何処へ行くにもついてくるし、先輩ってだけの俺をまるで主人のように慕う。

キラキラした純粋な瞳が痛くて、俺はそんな大した人間じゃないのにって。だからこいつに見合うだけの男になろうと思ったんだ。こいつが尊敬できるような「葉山さん」であろうと。

いつからだったか、俺が頑張る理由には深水がいたんだ。

「深水、なぁ…っ、俺のこと、好き?」
「えっ…ん、んぅっあ、あぁっあっ、ひ、あっ」

下から強く突き上げる。ぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てて自分のモノが出入りするのが丸見えで、とてつもなく興奮した。

「やぁっやだ、やだ…ッあぁぁ!ん、だめ、はやまさ、もう、もうむりぃ…っ」
「…ふーん。俺のこと拒むんだな、深水は」
「ちがうぅ、ちがいますからぁ!」
「ん?何がちがう?」

腰の動きとは裏腹に、優しく額に口付ける。深水は少し眉を下げたかと思うと、その直後強く抱き着いてきた。

「すき、はやまさん、俺…っん、はやまさんがすきです…すきだからぁっ、ぁっあ、はぁっん!」

知ってる。

だって、そう仕向けたのは俺自身なのだから。

一度気がついてしまった気持ちは止めようがなくて、どうしても手に入れたくなって、他の誰にも譲りたくなくて。だから強引に奪った。

俺しか見えないように。他の誰も見ないように。

「…よく言えました」
「ひぁぁっあっ、待って、待って、でる、でちゃうからやめ…っんん、ふぁ、んぅ…んっんっんんんんーッ!」

漏れ出る声すらも全て独占したくなって、貪るように唇を味わう。同時に深水の性器を軽く指で弄ってやれば、どろりとした液体が吐き出された。どうやら達してしまったらしい。

一旦口を離してみると、深水は絶頂の余韻かうっとりした表情で息を荒くしていた。普段からは想像もできないような妖艶な姿に、ドキリと心臓が高鳴る。

「はぁ…っ、ぁ、あ、はやまさん、おれ、おれ…」
「…可愛い顔しやがって」
「え…?」
「なぁ、さっきの質問に答えてげようか」
「んぁっ!し、しつもんって…あぁっん、ま、まだ待って、やぁっ」

再び突き上げを開始させつつ、その身体をきつく抱きしめた。

――俺とあの女優さん、どっちが好きですか。

そんなの、答えは決まってる。

「…お前しか好きじゃない」
「へっ、あっあっ…い、いま、っなんて…」

素直だけど意地っ張りで、危なかっしくて目が離せなくて。

キラキラした顔で笑う、そんな深水を、もうずっと前から。

「好き」
「――ッ!!」
「ん…っちょ、キツいって…!」

繋がったままの部位がきつく搾り取るような動きを見せる。耐えることなど当然出来ず、そのまま欲望のままに吐精した。勿論後のことを考えてゴムは装着済みなので、しばらくの間射精の快感に浸る。

どれくらいの間そうしていただろうか。

「…深水?」

いつまで経っても抱きついて離れない深水を疑問に思い、そっと身体を離してみた。

「ひぁっ!」
「え、なに…」
「や、やだ、見ないでくださ…」

はだけたシャツの合間から覗く俺の腹と深水との間を、白濁が繋ぐ。おまけにそれだけではなく、深水のソレは未だ萎えることもなくとろとろと精液を吐き出していた。

「…ずっとイってんの?」
「やっ、わかんない…おかしくて、止まんないんです」
「好きって言われたから?」
「ち、ちが…」

火がついたかの如く真っ赤に染まる頬。堪え切れず盛大に噴き出してしまう。

「お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「は、はぁ!?」

ちゅっと音を立ててキスをしてやると、深水は文句を言いたそうにしながらも押し黙った。俺はますますいい気分になる。

「まだ休憩が終わるまでちょっと時間あるから、安心して俺に抱かれてろ」
「ふざけないでくださいっ、も、離っ…」
「離さない。やっと手に入れたのに、今更手放すか」

始まりは強引だった。そのことに対して弁明するつもりはないし、卑怯だと蔑まれたって構わない。

俺は、深水のいない毎日を想像できないんだ。俺にはこいつが必要なんだ。

どんなファンよりも、俺の方がずっと深水を愛している自信がある。

「深水」
「なんですか」
「好き」
「!!」

やっぱり葉山さんはずるい。

そう言って恥ずかしがる深水を、俺は笑いながら抱き寄せた。

「…あと少しだけですからね」
「分かってる」

その後すっかりへろへろになり、撮影で使い物にならなくなってしまった深水にガッツリ怒られたことは、ここだけの話にしておく。


[ topmokuji ]



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