▼ エゴイズム
心地の良い昼下がりだった。本を読んでいたはずが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。体に毛布がかけられていて、思わず微笑む。兄さんの使っている毛布だ。
しかし、隣で同じく本を読んでいた彼の姿がない。ふと耳を澄ますと、玄関の方で誰かの話し声が聞こえた。
「兄さん?何して…」
ひょいとそこに顔を出す。目に飛び込んできたのは、予想もしない光景だった。
「じゃあ間宮くんは欠席ってことでいいのかな?」
「う、うん…ごめ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。こちらこそいきなりお邪魔してごめんね」
「いや、あの、わざわざ、ありがとう…お、俺なんか、にも、声、かけてくれて」
兄さんは家族以外の人間と話すとき、上手く言葉をつなぐことができない。途切れ途切れに聞こえる彼の声に思わず眉を寄せた。
…誰だ。あの女は。
「次の同窓会は来られるといいね」
「あ…え、えっと、俺が、いると、多分皆、嫌がる、から」
「そんなことないよ。ちゃんと間宮くんに会いたいって思ってる人もいる」
「…」
「例えば、私とかね」
「えっ」
ギリ、と歯を噛みしめる音がした。言わずもがな俺が立てたものだ。
「兄さん」
「隆幸。起きたのか」
「うん。手伝って欲しいことがあるんだけどいいかな?」
「いいけど」
「ちょっとこっちに来て。…すみません、お取り込み中のところを」
兄さんのその細い腕を引き寄せながら、玄関に立つ女に笑みを浮かべる。最大限の猫被り。本当は腸が煮え繰り返っていた。
…誰の許可を得て、この人に話しかけてるの?
女は慌て、「いいんですそろそろお暇させていただきますから」と言う。兄さんがぱっと振り返った。
「あ…三木さん、あの、き、きをつけて」
「ふふ。ありがとう間宮くん。またね」
またね?ふざけるな。そんな日は絶対に来ない。
この人を、俺以外の人間に触れさせてなるものか。言葉を交わさせるものか。この人の全ては俺だけのためにあるのだから。
閉まる玄関ドアを見つめながら、俺は怒りという感情が佛々と湧き上がるのを知覚していた。
*
「んはぁぁっ、う、ぁぁ、やだぁぁぁっいやだぁぁぁっ!!」
「兄さん、俺が今どうしてこんなことをしてるか、ちゃんと分かってる?」
「う、うう…あぁ…」
ペニスの根元にはコックリング。さらにアナルには激しく振動し続けているバイブが突っ込んである。
当然いくら快感を与えても達することは不可能で、兄さんはとっくに限界を迎えてしまっていた。何もしなくてもぶるぶる震えている。
「おれが、おれが、三木さ、と、おはなししたからぁ…ん、ふうう、やっ!」
「そう。どうして俺の知らないところで、勝手に他の女の子と仲良くしてるの?兄さんはあの人が好きなの?俺との約束を破って、同窓会にいくつもり?」
「ちがっ、ちがうぅ…俺が好きなのは、隆幸だけぇぇっあぁあっ」
あの女はそうじゃないみたいだけど。嫉妬で身が焼き切れそうだ。
「俺のことが好きなら尚更許さない。俺だけ見てないと許さない。じゃないと、兄さんのこと嫌いになるから」
「いやだぁぁぁぁっ!!!!」
千切れそうなほど激しく首を振って縋り付いてくる彼の姿に、自然と口角が上がった。
そう。兄さんは俺がいないと生きられないんだよ。他の女なんていらないでしょう?俺がいるんだから。
「いやだぁぁ…隆幸ぃ、お願い、捨てないで…いやだ、いやだ、やだぁぁぁっ!!」
涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔も、狂おしい程に愛おしい。
ふふ。俺が兄さんを嫌いになるなんて、天と地がひっくり返ってもあり得ないけどね。
兄さんが俺なしで生きられないように、俺も兄さんなしでは生きられない。
「う、ひっ…隆幸、隆幸、ごめ、なさ…嫌いにならな、で…お願い…っく…」
嗚呼、なんて愛らしい。何も知らない無垢な心を支配している喜び。この人をこんな風にしたのは、他でもない俺だ。
ぱっと出てきたような見知らぬ女に穢されてなるものか。
何もできなかったくせに。お前らは兄さんを救えなかったくせに。心の中では蔑んだくせに。誰のせいでこの人が心を閉ざしたと思ってるんだ。
今更その魅力に気がついたって、もう遅い。
「愛しているよ、幸広」
「ほ、ほんと…?どこにも行かない?俺と一緒にいてくれるのか…?」
「幸広が俺を求めてくれるなら、ね」
「もっ、もとめる…!」
とめどない涙で頬を濡らしながら、兄さんは愛してる愛してるとうわ言のように繰り返した。
…いい。いいね。兄さん。すごくいい。貴方はきっと愛してるという感情を知らない。俺にただ執着しているだけだ。
だが、それでいい。執着すればいい。行き過ぎた束縛も、飢えた俺の心にとっては快感になる。
「もっと、言って」
「愛してる、愛し…っあぁぁぁぁぁッ!やぁぁっ、いたいっいたいぃ!」
今にも爆発しそうなほど膨らんだ彼のペニスを強く扱く。あまりの衝撃に悲鳴が上がった。コックリングのせいもあるだろう。
「ひぃぃぃいっ、あうううっ!!んぁぁぁっ!!んぐっ、あぁぁぁ…ッ!」
同時にバイブの振動レベルを最大にする。兄さんは快感から逃れようとしたのだろう。体制を変え、四つん這いになってシーツを掻き乱した。
眼前に晒される真っ赤な尻の穴。太い玩具をずっぽりと飲み込んでいるそこは、排泄器官というよりはむしろ完全な性器である。
「兄さんのココ…腫れてるね。ヒクヒク疼いてるよ。バイブじゃ足りないの?」
「あぁぁ…あっ、たり、なひぃぃぃっ、やらぁ、やらぁぁぁっ」
「どうして欲しい?」
ぐちゃぐちゃになった顔で振り返り、言った。
「隆幸の、おちんぽ、ください…ッ俺に、あついミルクかけてぇ、はらませてくださいぃぃぃぃっ!!」
ニヤリと唇が歪む。俺が、俺だけが、兄さんを愛せる。俺がこの人を染め上げた。
「…いいよ。お望み通り孕ませてあげる」
「ひぃぃぃやぁぁぁぁっ!!あぁいくうううううっ!」
ズルリとバイブを引き抜けば、狂ったように痙攣するその身体。射精はできないはずだから、ドライで達したのだろう。
玩具により広がっていた空間に、後ろからそのまま自身のペニスを突き立てた。
「あ゛ぁぁぁぁっ!!」
「…くっ、あんなに、太いモノ咥えてたのに、狭すぎ…っ」
「あぐっ、ぁぁぁっんんん、はぁぁっ!あぁ!あううう!」
「ふふ、またイったね、兄さん…」
「あぁぁ…ぁ、だめ、やら、あぁっ、やらぁ…っ」
堰き止められた彼のペニスは異常な程に先走りを漏らし、シーツには水溜りができていた。もう精液を出すことしか考えられないらしい。いきたいいきたいと何度も懇願される。
「っ、いきたいなら、約束して」
「んんぅっ、あ、する…っするうあぁぁぁぁぁ!」
「俺と家族以外の人と話しちゃ、だめ。目を合わせるのも許さない」
「わかっ、わかったぁぁぁ!あ゛っ、んんんんんん!」
「んっ、約束、だからね…!」
カチャリ。リングをはずしたその瞬間。
「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
兄さんはガクガクとのたうち回りながら白濁を噴き上げる。
「あひゃぁぁっ、あ、ぁ、あ、とまんなぁぁぁっ、いってう、いってうううう!うぁぁぁんっ!」
ぶしゃっと立て続けに数回の射精を迎え、訳が分からなくなっているようだ。すでに目の焦点はあっていない。
「あ、ぁぁ、あ…だめ、だめ…っいっぁぁ、んん…っ!」
しばらく震えていたかと思うと、ぐにゃりと全身の力が抜けた。尻だけは高く上げたまま。
あまりの絶頂に、気絶してしまったのだろう。
「可愛い兄さん。眠っちゃったの?」
「んっ、ん…ぁぁ…」
ゆさゆさと好き勝手に中を抉ると、小さな喘ぎ声が漏れた。腸内は段々と締まりを増している。
「寝てるのにエッチな身体…っ、あ、もう、イく…っ」
「ん、ふ、ぁ…あっ」
「く、ぁ…ッ」
びゅるびゅると奥の奥までしっかり注ぎ込んだ。孕ませると言ったのは嘘じゃない。本当に俺の子が生まれればいいのに。
「は…幸広、愛してる…愛してるよ…」
力の抜けた身体を抱き締め、何度も何度も愛を囁く。狂おしくて死んでしまいそうだ。このまま一つになってしまいたい。
愛してる。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。
だから、貴方も。
「んん、たか、ゆき…」
誰にも触れさせない、俺だけの宝物。ずっと俺に閉じ込められて。死ぬまで一緒だよ。
*
もくもくさん、名無しさん、チロルさんへ
隆幸目線でR18、幸広の知り合いが訪ねて来て嫉妬、お仕置きというリクエストでした。
隆幸目線は初めて書いたので楽しかったです。彼の精神的幼さ、みたいなのも盛り込んでみたのですが…うまく伝われば幸いです。
リクエストありがとうございました!