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20th Apr 2019

小ネタ

望「聞いてくれるか九条」
九「なんだよ」
望「伊原のことなのだが」
九「だろうな。お前が伊原さん以外の話題を俺に聞かせたことが今まであったかよ」
望「伊原がようやく僕のことを好きだと言ってくれたんだ」
九「……」
望「なんだその顔は」
九「今まで言われたことなかったのかっていう驚きの顔」
望「なかったから喜んでいるんだろう」
九「まじで?あれで?」
望「あれで、とは」
九「あの距離感はどう見ても普通じゃねぇと思ってたんだけど」
望「伊原にとっては普通なんだよ。僕が子どもの頃からずっとそうだったんだ。伊原の中で、僕はずっと子どもままだった」
九「ふぅん……よくわかんねぇけど、子ども扱いされるのは嫌だよな」
望「嫌だよ。僕はあいつに守られるべき子どもじゃなくて、恋人になりたかったんだから」
九「もうなれたんだろ」
望「そうだな。長かった。本当に長かった。僕は出会った日からずっと伊原を好きだったから」
九「よくそんな長い間片想いできるな。俺は無理だな。待てない」
望「待つ。必ずものにするつもりだったしな。あいつが手に入るなら、僕はいつまでだって待てる」
九「待ってる間に誰かにとられちゃったらどうすんだよ」
望「誰にも渡す気はない。伊原が他の奴のものになるなんて耐えられない」
九「耐えられないっつったって……ガキのときに伊原さんがもし他の誰かと付き合ってたとしても、子どもには止めようがなかったんじゃ」
望「なんとしてでもそいつと伊原を引き剥がしにかかってただろうな」
九「そのせいで嫌われても?」
望「また好きにさせればいい。伊原が他の誰かに触れられるなんてことは許さない」
九「伊原さんは大人だろ。誰かと付き合った経験くらいあるんじゃねーの」
望「ない」
九「なんで言いきれるんだよ」
望「伊原はとんでもなく初心だから」
九「別に関係ねーだろ。何人と付き合ってもウブな人はいるだろうし」
望「……すまん。直球で言えばよかった。伊原はキスもしたことがなかったし、僕に抱かれるまで処女だったからだ」
九「しょ……っ」
望「まぁ、僕と伊原の初めてはもう何年か前の話だが」
九「つ、付き合ってないのに、そういうことするのはアリなのかよ……」
望「それは当人同士の自由だろ。僕は嫌だけど」
九「俺だって嫌に決まってるだろうが!」
望「してるのか?」
九「……してないけど」
望「なんだ。とっくにしてるかと思っていた」
九「なんでだよ」
望「勘というやつだ。それに、その反応ならあながち間違ってもいないだろ。当たらずとも遠からず、といったところか」
九「……俺は好きだけど、あっちは好きかわかんねーし」
望「それは僕にもわからない」
九「はー……いいなぁ。俺も両想いになりてぇな」
望「ま、そっちは僕と違って大人だからな。いろいろ考えることもあるんだろ」
九「伊原さんだって大人だろ」
望「そうだな。だからここまで時間がかかったととも言える。僕は伊原のために全てを捨てる覚悟はあったけど、伊原は僕に全てを捨てさせるのを嫌がった」
九「大人ってめんどくせぇ……好きなだけじゃ駄目なんだろうなってのは俺にもわかるけどさ」
望「相手の不安を超えるくらいのいい男になればいい」
九「いい男?」
望「僕は伊原を幸せにする自信がある。世界でたった一人、僕だけが伊原を幸せにできる」
九「そりゃ西園寺はな。お前はなんでもできるスーパー人間みたいな奴だろ。俺は違う」
望「そうだな」
九「否定しねーのかよ!」
望「僕がなんでもできる完璧な人間だというのは事実だし、お前がそうでないというのも事実だろ」
九「そうだけどさ……」
望「だけど、可能性はゼロじゃない。お前が九条の家に生まれたっていうのは事実なんだから、それを強みにすればいい」
九「強みって?」
望「一人前の男になるための環境という点では、僕達は他の人より恵まれているということだ」
九「……そもそも九条を継ぐのは俺じゃないし、俺は期待なんかされてねーし」
望「僕だってそうだ。家を継ぐのは兄さんだ。でもだからといって、僕が西園寺じゃなくなるわけじゃない」
九「伊原さんのためなら全てを捨てられるって言ってたじゃねーか。お前、家柄とか気にするタチじゃないだろ」
望「そうだ。僕はあいつのためならこの名前を捨てられる。でも、伊原はそれを望まない。西園寺であることで伊原が喜ぶのなら、僕はそうするだけだ」
九「……」
望「何故黙る」
九「いや……なんか……すげー男前、って思って」
望「……」
九「おい。そっちこそ急に黙り込んでんじゃねーよ」
望「いや……悪いがお前の気持ちには応えられない……と思って」
九「なんでそうなるんだ!俺がいつお前を好きだって言ったよ!」
望「僕を褒めるやつは皆僕のことが好きだぞ?」
九「なんなんだその無駄な自信は!?」


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