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8th Jan 2017

小ネタ

鳴瀬と八名川と別れてから、帰りにうちに寄って帰ることにした。貸すと約束していた漫画をまだ渡していないことに気が付いたからだ。

「んーと、これとりあえず10巻まで。読んだら言って。続き貸すから」
「ありがと」
「返すのはいつでもいいよ」
「うん。ね、そーちゃん」
「なに?」
「お腹いっぱい?」
「うん。いっぱい食べたし」
「じゃあ運動しなきゃ」

その表情と声色で何を言いたいかを察した俺は、ひかるの両頬を指で抓りあげた。バカだ。アホだ。何が運動だ。

「いひゃい」
「バカ」
「だって、さっき八名川にお年玉もらったし」
「お年玉は新年にならないと開けないだろ」
「えー…じゃあちゅうは?」
「…いいけど」

答えた瞬間、すぐに唇が塞がれる。立ったまま少し背伸びをしてそれに応えると、ひかるは荒っぽい手付きでぎゅっと俺を抱きしめた。

「…ずるいよ聡太郎。そんなことされたら余計したくなる」

しゅんと肩を落とす様子がおかしくて、甘やかしたくなって、たまらなくなる。俺は笑って「キスならいくらしてもいいよ」と言った。

「キスだけ?」
「うん」
「乳首触るのは?」
「…うん」
「吸ってもいい?」
「ちょっとだけなら」
「聡太郎のおっぱい弄りながらオナニーするのはダメ?」
「だ…ダメ。それはダメ」
「なんで?」
「んっ」

ひかるはちゅっちゅっと音を立てて口付けてくる。戯れのようなキスが心地良くて黙ったままでいると、段々とそれがエスカレートしてきた。

「ん…っ、ん、ん…」

歯列を舌先でくすぐられ、びくりと身体が反応する。いつの間に滑り込んできていた指が、服の上から胸の先端を押し潰した。吐息のような声が零れ落ちる。

「もうかたいね」
「うるさい…ダメ、やめろってば…」
「かわいい顔してそんなこと言って、ほんとかわいい」

こいつの言うことは、いつだってちっともわからない。かわいいかわいい言い過ぎだ。

「なんでダメなの?」
「…お前、絶対途中で我慢できなくなるだろ。入れたいって言うだろ」
「聡太郎だって絶対途中で俺に入れてほしいって言うよ」
「言わない」
「本当に?うそついたら罰ゲームね」
「いいよ」

ひかるの顔に満足げな表情が浮かぶのを見て、俺は笑いをこらえるのに必死になった。ひかるはまんまとこちらを丸め込んだつもりでいるようだが、それは違う。俺は知らずに丸め込まれたわけではなく、わかっていてあえて誘いにのってあげたのだ。

「…ばかだなぁ」
「えぇ?何が?」

年を越す前に「お年玉」を使い切ってしまうなんて、無駄遣いもいいとこだ。



守山と村上と別れてから、俺と八名川は回り道をして帰ることにした。まだもう少し一緒にいたいだなんてことを言うつもりはないが、それに近い気持ちを抱いていたことを否定はしない。

「寒いねぇ」
「そうだな」
「手繋いでもいい?」

辺りに人はいない。

「いいけど」
「やった」

八名川の指先は、驚くほど冷たかった。大丈夫かと尋ねる。

「何が?」
「氷みたいな手だ」
「手が冷たい人は心があったかいって言うでしょ。昔から」
「その理屈でいくと、俺は心が冷たい人になるじゃないか」
「鳴瀬は冷たくないよ」

八名川は繋いだ手を自らの唇に引き寄せ、俺の指先にそっとキスをした。

「鳴瀬は俺には甘い」

暗い夜道、笑う奴の顔が街灯に照らされる。寒さのせいか、普段よりも色味を失くした唇の感触は柔く、その表面が薄く湿っていた。

「…そうだな」

そうだ。俺はこいつに甘い。自覚はある。

だけど、俺じゃなくてもきっとそうだ。この男にこんな顔をされたら、どんな頑なな人間も絆されてしまうに違いない。

「お前、あんまりそういうことするなよ」
「そういうことって、何」
「その顔」

八名川はふふふと笑って息を吐いた。それが白い雲となって空中に消えていく。

「鳴瀬って、俺の顔好きだよね」
「嫌いな奴がいるのか」
「なに?なに?今日どうしてそんな嬉しいこと言ってくれるの?」
「う」

いきなりすごい勢いで抱き着かれた。いや、抱き着かれたというか突っ込まれたと言うほうが正しい。

「帰りたくないなぁ」
「…」

俺も、とは言わなかった。否、言えなかった。

「年明けたら、一緒に初詣行こうね。あ、初じゃないか。家族の人と行った後でもいいから、とりあえず鳴瀬と俺とで一緒に参りに行きたい。おみくじも引きたい。そんで…」
「八名川」
「ん?」

代わりといってはなんだが、少し身を屈めて口を塞ぐ。触れるだけの一瞬のキスに、八名川は呆けたような顔をしたが、すぐに我に返り俺に詰め寄った。

「えっ、え…っ、なんで今、キスしたの」
「なんとなく。したくなったから」
「…鳴瀬のツボってよくわかんない」
「駄目だったか」
「なわけないでしょ」
「おい」

八名川は「お返し」と言いながら巻いていたマフラーをほどき、首筋に吸い付いてくる。冷たい唇の感触に思わず身体が強張った。きつく肌を吸われる痛みで顔を顰める。

「お前な…こんなとこにつけたら隠せないだろ」
「隠さなくていいじゃん。鳴瀬は俺のって証、皆に見せびらかしてよ」
「…俺にもつけさせろ」
「あはっ、こんなところで服肌蹴させるなんて鳴瀬のエッ…むぐっ」
「馬鹿」

夜の住宅街で誤解されるようなことを言うな。



今年もこういうバカップルを積極的に書いていきたいです。
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